3.「No Future!」だったはずの未来で生きている
かつてThe Whoのロジャー・ダルトリーは、「老いぼれる前に死んじまいたい!」と叫び、セックス・ピストルズのジョニー・ロットン(ジョン・ライドン)は『God Save The Queen』で「No Future!」を連呼し、カート・コバーンは「自分のことが大嫌いで、さっさと死んでしまいたい」と嘆いてきたように、古来より(ってせいぜい5、60年程度のものだけどさ)現状に絶望して未来を悲観するのが由緒正しいロック仕草とされてきた。ような気がする
まあ、彼らほどではなくとも、現状に不満を抱きながら変えることも出来ないと無力感と虚無感に苛まれるのは、若い時期特有の流行病みたいなもので、程度の差こそあれ、一度はそういうことを考えるものではないかしら?
「は? そんなこと考えたこともないっス」
という人がいたら申し訳ないが、そういうことにして話を進めたい。
じゃあ、そんなことを言っていた人間がその後どうなったかといったら、ドラッグにまみれた結果死を選んだカートはともかく、ロジャー・ダルトリーとジョン・ライドンはどっこいしぶとく生き続けて、ロジャー・ダルトリーは80歳になり、ジョン・ライドンはあと2年で古稀を迎える。ついでに、去年大ベテランのローリング・ストーンズは新作を発表して話題をかっさらった。
という感じで、どいつもこいつも見事に老いぼれ、なかったはずの未来でのこのこ生き続けているってわけだ。
「はっ、みっともねー」
なんて言ってこのことを嘲笑えるのは若者の傲慢さと狭量でしかない、と分かるようになるのは、やはり歳を取ってからだ。
昔なら私も、
「あーあ、あんな風に言ってたのにさぁ」
なんて、がっかりしていたこともある。
でも、ある程度人間生活も長くなってくると、若い頃の「純粋さ」なんて無知の言い換えにすぎないと気付くし、軸がぶれないなんてのは変わることを恐れた臆病者の言い訳でしかないと分かってくる。
だからって、まだまだ何も経験してない青二才のくせに分かったようなことを言ってる奴は、もっとつまらないぜ。
むしろ、何も知らなくて経験も浅いんだから、若い時は思う存分恥の搔き捨てで良いと思う。
成功より恥と失敗の方が視野を広げるものだからね。
でも、そんな風に思えるようになるのも歳食ってからじゃないと実感できないもので、若い時はとにかく何もかもがもどかしいのもめちゃくちゃ理解できる。
それでも、今の子って(と、いっぱしのおばちゃんみたいなことを言ってみる)妙に物わかりの良い素直な子が多くて、綺麗にまとまってるのが見ていて少しつまらない。
世間から散々苦言を呈され、バカにされながら、
「これがあたい達のやり方よ」
と堂々とヤマンバメイクをしていた女子高生の強烈な自己主張が懐かしい(そんな女の子達も今や立派に親になってるんだよね。親御さんたちはさぞ肝を冷やしただろうけど、知恵熱が下がるとちゃんと世間と折り合いをつけて自律するものなんだよ)
カートが生前毛嫌いしていた、でもカートとは別のベクトルで自分や時代の絶望感を歌っていたパール・ジャムのエディ・ヴェダーだって、カートの死の直後のインタビューで、
「なあカート、そこ(天国)にオレの居場所はあるかい?」
なんて語りかけていたものだけど、そんなことを言っていたエディだって12月になればもう60歳だ。
うっそぉ! マジかよ……(そっちに驚くのか)。
『Vitalogy』のオープニング曲は「Last Exit(最後の出口)」だったけど、最後だったはずの出口を抜けたって生き続けている。
「あの頃」の自分が思っていたこと、言っていたことが嘘だったわけじゃない。
その時の気持ちに誰よりも誠実だっただけだ。
でも、TPOや年齢で装いを変えていくのが当然なように、人間だって同じ殻を着続けるわけにはいかない。
人間は変わる。変わり続ける。
変わらないのは、死ぬまで生き続けることだけで十分なのだよ。
パール・ジャムがライブで演奏したThe who「Baba O'Riley」の中の、
「泣くんじゃない、そこは10代の荒野でしかないんだから」
というフレーズを、バンドメンバーはもちろん、オーディエンスの、人生の酸いも甘いも山も谷も味わってきただろうオーバー40どもがニコニコして歌っているのを見ると、人生そう絶望しなさんな、と思えてくるのだ。
で、最後に本当にどうでもいい余談。
エリザベス女王が崩御された当時、もともと公式が『God Save The Queen』の動画を上げてたのに、女王の死に合わせて改めてこの曲の動画(それも、プラチナジュビリーの日に行ったテムズ川川下りライブのやつ)を上げて「追悼」してたんだが、これのコメント欄にあった、
「女王は死ぬが、パンクロックは死なない」(Punk never dies, but the queen does.)
というコメントに対する、
「は? パンクなんとっくの昔に死んでんだろ」(Wrong. Punk died long before the queen did. What also died is your youth (thinking punk is still alive, lol) and ostensibly, your sense of decency as well on the day of her death.)
なんていう反論から、当人たちとは関係ないところで侃侃諤諤の謎のパンク論争が21世紀におっ始まってて、めちゃくちゃ笑った。
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