1222 困った客
柚葉が準備した柚子風呂につかったフグ顔の婦人が赤べこのような顔をして、湯処から出てきた。たまたま居合わせた九十九と何か話しているようだ。
九十九に招き手で呼ばれた柚葉は抱えていた手拭いを置いて、そろりと近付いた。こちらの婦人も神様なのだろうかと恐々としながら姿勢を正す。
頬に埋もれる目をぐっと細めた婦人は、柚葉には全くわからない言葉を口にした。
「めやぐだ」
戸惑いの言葉を飲み込んだ柚葉は九十九に目だけで助けを求めた。
ありがとうって、意味だと九十九が補足を入れる。
「満足、して、いただけたようで、何よりです」
ぎこちなかったが、ちゃんと伝わったらしい。婦人は機嫌よく立ち去っていった。
椅子と桶を背の倍は積んだ九十九は、声をかけながら持ち上げる。
神様だから力持ちなのだと、異常な光景に顔がひきつらせた柚葉は手拭いに入れた籠を揺らした。
ひらりと舞った布を、零が人差し指と親指で摘まんで籠に戻す。
小さな子達に世話を焼かれていると申し訳なく思っていた柚葉だが、見た目通りの歳なのだろうかと自分の基準に疑問を持った。
何人かとすれ違い、通路の端で道を譲っていると、薄色を持つ男が現れる。もったいぶるように湯処に向かう足を止めた。
何もしていないはずの柚葉に向けられた目は冷ややかなものだ。何事かとうかがえば、顔の中心にしわが寄せ、鼻を袖先で隠していた。
「この風呂、えらい
九十九達はあからさまに面倒くさそうな顔をして、柚葉は顔面蒼白となる。謝らなければと思うのに、なかなか言葉が出てこない。
「おやぁ、お稲荷様はお気に召しませんか」
場違いな程のんびりとした言葉に皆の注目が集まる。
渡り廊下の端で、赤い鼻をした支配人が湯飲みを持っていた。
柚子湯だ、と呟いたのは九十九で飛ぶように湯飲みを覗きに行ったのは零だ。
「お稲荷様の風呂には、わざわざ別の柚子を入れてさしあげたのにどんな風の吹き回しです」
「広い風呂に入りたい気分になったんだ」
さようで、とにこやかに間を取った支配人は渡り廊下から裏庭に出て、焚き火の具合を見た。
「明日の朝、飛びっきりの熱燗と洗い立ての風呂をご用意しましょう。それでご容赦ください」
おまけに焼き芋をつけましょうか、と笑った支配人と対峙した男は視線を森の向こうにやると一笑して部屋へと足を向ける。
「あれを早く追い出してくれ」
捨て台詞に、ええぇと嫌がる子供みたいな声を上げたのはもちろん支配人だ。土を掘り掘り、どっちもお客様なんだよなぁと全く困った様子もなく文句を垂れる。掘り出した焼き芋を五本ほど脇に寄せてから、柚葉と九十九に差し出した。
「おいしいよ」
「ありがとう、ございます」
受け取ろうとした焼き芋が、飛んできた枝に弾き飛ばされる。
振り返った柚葉の目に見覚えのある古ぼけた茶色が飛び込んできた。
「感謝なんて、ワイも言われたことないのにぃいい!」
誰なのあれ、絹田様やなとこそこそと話す声は柚葉の耳には届かない。あんぐりと開けた口を一回閉じて、ぽろりとこぼれたのはかつての常連客の名前だ。
「
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