まほろばホテルには神々が住まふ #アドベントカレンダー2024

かこ

1201 まほろばホテル

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 あんまりな醜女しこめだと縁談を断られ続け、実家の旅館をほっぽり出されたのは、つい五日前。花嫁修行だと投げつけられた紹介状を頼りに海を渡り、汽車に三日揺られ、たどり着いた先が『まほろばホテル』だ。帝都の中心部からほどよく離れた閑静な一角のおかげか、駅から離れた辺鄙へんぴな立地のおかげか、鬱蒼うっそうとした林に囲まれていた。

 鈍色の屋根に白い石造りを基本とした洋風な佇まいを目にした柚葉ゆずはは、雲海を思い出す。

 天井の高そうな館の二階の窓に映る木々はどれも暗い。三階の窓は高さがないが、どんな部屋があるのだろうか。見慣れない造りにも不安を覚え、玄関に視線を戻した。

 両開きの扉の上には金物の飾りがつけられていたが、柚葉にはさっぱりわからなかった。中心には二羽の鳥が対となるように翼を広げ、嘴は天を指す。

 場違いな所に来てしまったと握る手にじっとりと汗を感じた。

 にぶく光る取っ手を恐る恐る回し、中を覗けば薄暗い。忙しくない昼過ぎを狙ったとはいえ、人影がないことに柚葉は首を傾げた。部屋の片付けや支度はもう済んでしまったのだろうか。気配さえ感じないので客が入っていないのではと心配してしまう。


「ごめんください」


 声をかけても返事はなかった。

 足を踏み入れれば、埃っぽさがないことに安堵する。飴色の柱も磨きあげられ、窓から下がる布も日に焼けていない。

 備え付けの長机の奥で物音が聞こえたような気がした。







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