大好きなエロゲーの世界に転生したはいいけど、必ず死ぬ悪役だった。せめて攻略ヒロイン全員の女体を拝むまで俺は生き残りたい!

沖彦也

第1話 俺、エロゲーの世界に転生する

「んほああああああ! やっぱ最高だ!! 『学スト』は!!!」


 俺こと只野ただの安尋やすひろは絶頂のまま叫んだ。


 パソコンの画面には最高のシーンが映っている。

 可愛らしい白金の女の子が一糸まとわぬ姿で、主人公と幸せそうに抱き合っているCGだ。


 そう、俺は今お気に入りのエロゲーをプレイしている。

 その名も名高きエロゲー。


『魔法使いたちの学園青春ストライヴ!!』である。


 時は2010年代。エロゲーが斜陽産業となり、諸行無常の響きが聞こえる界隈に、これは突如として現れた。


 エロゲー批評で有名な古のサイトが息を吹き返して「かつての俺たちが萌えた、あの物語がここにある」と言わしめたアダルトゲーム。


 かくいう俺もその一人であり、萌え残ったオタク心すべてに火を点けて、見事にハマった。


 そこから幾年月。アラフォーに差し掛かった今でも度々プレイしては、物語を楽しんでいる

 たぶん俺は死ぬまでこれをプレイするし、この世が滅ぶときはコイツと滅ぶ。


「ふぅ。さて、片づけるか」


 ストーリーが好きなので俺はこれをプレイしているが、エロゲーである以上ちゃんと使える。

 なので賢者モードとなった俺はヘッドホンを外して、いそいそとオナホを持って風呂場に向かおうとした。


 だが、俺は気づかなかった。

 絶頂して叫んだ時に、ローションの入ったボトルをひっくり返していたことに。


「おおおおおっとぉ!?」


 足にぬるっとした感覚があったかと思ったら、天地がひっくり返って、頭に激烈な衝撃。

 派手な音と共にすっ転んだ。


 驚きと衝撃と痛みで動けない。

 あ、これ絶対ヤバいヤツ。

 死ぬ。


 そう思った時、ちーんという変な音が鳴って俺の意識は消えた。


 ■□■□


「……さん。お……さん! 桜雅おうがさん! 起きてくださいよ!」


 誰かが呼んでいる。

 どうもぼんやりする。


 う~ん。おうがって誰だ?

 あ、俺か。

 え? 俺?


「ふはっ!」


 ハッと気づく。

 辺りをキョロキョロと見回した。

 どこかの庭だ。


 それもかなりの手の込んだ庭だ。

 始めてみるはずなのに見覚えがある。

 なんで、こんなところに?


 頭に霞がかかってどうもハッキリしない。

 俺はたしか、アパートの部屋で学ストを……。


「どーしんたんすか。桜雅さん。立ったまま居眠りっすかぁ?」


 思考の深みへ沈もうとしたが、声をかけられて引き戻される。

 野暮ったい少女が心配そうに見てきた。

 クリっとした目、手入れされていない栗色の髪、タヌキを思わせる顔、制服からでも分かるほどの巨乳。

 どこかで見覚えがある。

 

「クリキチ?」


 俺は無意識のうちにボソっと言った。


栗吉クリキチじゃなくて、粟吉あわよしっすよ。もういい加減覚えてくださいよ。桜雅さん」


 少女はむーっとしかめっ面で言った。


「大丈夫っすか? もうすぐお姫さんの歓迎集会が始まるから行くっすよ」


 どういう事だ。

 頭が混乱する。

 けれど体と口が勝手に動き出す。


「ああ、悪かった。行くぞ、クリキチ」


「だーかーらー。アタシは粟吉あわよしですって!」


 何だコレ。どういう感覚だ?

 歩き出して分かったが、ここは学校のようだ。

 そして校舎の窓に映った、自分自身の姿を見て驚愕した。


 整った顔立ち。短く切った赤髪。鋭い眼光。頬に十字傷。

 体格は大きくガッシリとしていて、野獣を思わせる強そうな男。


 間違えるわけがない。俺はまさしく。


「き、鬼咲きざき桜雅おうが!?」


 そこには俺が良く知っている学ストのキャラクターがいた。

 そういえば声がこのキャラクターのものだ。


 自覚したとたん、急に現実感というか、ハッキリとしてきた。

 ていうか俺、鬼咲きざき桜雅おうがになってるぞ。


 顔を触って確かめる。

 ど、どーなんてんだ。これ。


「ちょっと、本当にどうしたんすか? 桜雅さん」


 うわ! 桜雅の相方のクリキチじゃないか!?


 さ、最推しのヒロインが目の前にいる。

 いや、だがそれどころではない。


「どうしたも、こうしたもねぇーよ。クリキチぃ。ちょっとトイレ行ってくるから先に行ってろ」


 俺はとにかく状況を確認したかったので、慌てて別方向へ駆け出した。


「あ、ちょっと! ゴリTティに怒られても知りませんからねー!」


 彼女が何かを叫んでいたが、いまはそれどころじゃない。

 俺は近くのトイレに駆け込んで、鏡で改めて姿を確認する。


「やっぱり、間違いない。どこをどう見ても、学ストの悪役キャラクターの鬼咲きざき桜雅おうがだ」


 俺は思い返す。


 さっきまでいた豪華な中庭。

 見覚えあるブレザータイプの制服。

 クリキチと呼ばれる少女。

 そして鬼咲桜雅。


 この状況と、あの死の瞬間の記憶。

 そこから、オタクである俺の知識を総動員して導き出される答えは一つ。


「俺、学ストの世界に転生しちまったのかぁ!?」


 しかも、悪役のキャラクターで!


「た、大変な事になってしまった!」


 俺はこの先の展開を思い出して、頭を抱えるのだった。



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カクヨムで数多の作品がある、エロゲー転生モノに挑戦します。

お付き合いよろしくお願いいたします。


なお、一気に二話更新です。

二話目は14時頃に公開予定です。


読んでいただき、ありがとうございます。

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