第11話
私、というかかつての自分がどのように死んだのかというと、別に恥ずかしい話でもなんでもなく普通に病死だった。
なんの病気だったのかというと――いや、別にそこに関してはもうどうでも良いと思っている。
体質として生まれ持っていたから元々長生き出来ない事は決まっていたとかではなかった。
ただ、運が悪かった。
多分それだけの話なんだと思う。
しかし私がそのように納得しているのだとしても、他の人はどうかは分からない。
それこそ、親しい人とか。
このような表現をするのは適切ではないのだとは思うけれども、少しは悲しんでくれていたのだとしたら、個人的には嬉しかったりするのだが。
とはいえ今はもう私の事なんて忘れて新しい人生を歩んでくれていた方が良いとも思う。
『俺』はもう過去の人間で、この世からいなくなった存在なのだから。
じゃあなんでわざわざかつての家族を見に来たのかというと、まあ、やっぱり納得の出来ないタイミングで死に、離れ離れになってしまった事に対して未練が残っているという事なのかもしれない。
あるいはあの別れが予定調和であり、ずっと昔から決められていたものなのだとしたらもっとこう――いや。
正直に言おう、私の寿命が短い事が最初から決まっていて早い段階から別れの挨拶を済ませていたのだとしても、きっと私は同じくこうして家族の元を訪れていたと思う。
愛する家族と別れたい、離れ離れになりたいと思う人は、多分少ない。
そして俺はその「少ない」方の人間ではなかった、それだけの話である。
オルタデルタカンパニーの変装技術はもはや新しく人をデザインし直すレベルだ。
だからやろうと思えば私はかつての『俺』に戻る事だって可能だけど、それだともはや変装の意味がなくなってしまう。
別に今回は、それこそ家族に改めて別れを告げに来たとかそんな訳ではない。
ちょっと家族がどのような生活を今送っているのかを確認したらすぐに帰るつもりだった。
……そんな風に一目見て帰るなんて事が出来るかどうかはさておくとして、少なくとも今はそのように思っていた。
「……!」
そんな俺だから、家の近くまでやってきたところで前方からいきなりお父さんとお母さんが歩いているのを見た時は本当に心臓が止まるかと思ってしまった。
きゅっと胸が痛む。
喉が渇き体が痛む。
無視をしないといけないという自覚はある、だからつらかった。
このまま二人が通り過ぎていく時、俺は言葉一つ発せずにいられるだろうか?
我慢、出来るだろうか。
運命とはなんて残酷なのだろうと思ってしまう。
もっと覚悟をしてから合わせてほしかったとそのように思う――
「和樹は元気にやってるかな」
と、お父さんが言う。
俺の名前。
びっくりするほどのんきな声色。
……いや、あまりにものんき過ぎないか?
え、死んだ息子の話をする時の親ってこんなにも気軽な感じに話すものなの?
呆気に取られたというか拍子抜けしたというか、とにかく今度は違う意味で声をかけたくなってしまう、が、ぐっと我慢する。
「さあ? でも女の子になっていろいろ頑張ってるみたいだし大丈夫なんじゃない?」
……
……んんんん????
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