第16話 甘美なる醜態

 三郷ジャンクションを超える頃には攻守は交代していた。ワインレッドのストライプ柄のブラウス。上と下のボタン以外は外され胸ははだけられている。執拗な乳首攻めに降参した綾乃は半泣きのような声でせがんだ。


「おね……がい……指……ゆ……び入れ……て……お願い……」


「どこに欲しいかちゃんと言わないと」


「いや……そんな……言え……ない……」


「どうします、亮介さん」


「ダメだよね。放置していいと思うよ」


「やだやだ……入れて入れて……いじわるしないでぇ、あぁん……」


 涼介が真っ直ぐな目で綾乃を見る。


「ぁああん、おまんこに入れてくださあぁあいひぃいいい……」


 

 綾乃の陥落。

 憧れの女性を自ら堕としてしまった。

 その醜態のなんと甘美なことか。

 

 脳内におそらく分泌された物質が何であるかは問題ではない。

 涼介の頭部で確実に何か化学反応が発生している。

 

 ほんの0.01秒間の圧倒的な快楽に意識を持って行かれそうになりながらも、涼介は綾乃のであり続けた。


「よく言えましたね……では約束通り指を入れてあげますね」


「うん、うんうんうん! 入れて入れて――!」


 敬語で話してはいるが主導権は歳下の涼介にあり、綾乃はとうの昔に自らの欲望を露わにした丸腰状態だ。サディストだからといって乱暴な言葉遣いである必要はないし、なんなら母子ぐらい年齢が離れていたって主従関係は成立する。

 

 いくつかあるうちのSMの本質の一つに少し近づいたのではないか――。そんなことを真剣に考えながらハンドルを握る亮介であった。

 

 

 ◆


 

 「高速降りるけど、あと10分ぐらいで着くと思うよ」


 後部座席では綾乃が更にベソをかいている。

 


(指は第一関節まで、しかもほとんど動かしもしない焦らしプレイなんてどんだけドSなんだ――)


 呆れ半分、感心半分の亮介だった。


 


「涼ちゃんいじわる……どうして奥まで入れてくんないの……」


「その割にどんどんあふれていますよ。動かす必要もなさそうです」


「ぁああん、恥ずかしいよう……涼ちゃ……ん」


 一般道に入り、さすがにM字開脚状態だった綾乃のかかとはシートから床へと下りた。


 ルームミラーでは、綾乃は涼介の胸元にしっかりと抱きついているのが見える。見えないそこから下、大きく広げた脚の間では指入れされながらなのだが。




「その信号を右折でお願いします。ローソンがあるのでそこの駐車場で停めていただければ……」


「了解。じゃ……俺は駐車場で待ってるってことでいいかな」


「……はい! お預かりします。ありがとうございます!」


 以心伝心。託されることにいつから気づいていたのかはわからないし、気づいてもいなかったのかもしれない。だとしても、涼介の綾乃のあしらいにはセンスを感じさせるものが有る、と亮介は彼の頼もしさに感激しているのであった。

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