第14話 マテップ公爵領の攻防
ゼロ達一行が南にあるマテップ公爵領に近付く頃には東と北から駆けつけた「自警団カリヤ」と「遊撃騎士団」も態勢を整えてゼロ達に追従していた。その数合わせて1,000人。
「ねぇ、これは一体何なの。それにこの力、ちょっとおかしいんじゃないの」
「これは俺の軍団とハンナの軍団だ」
「そう言えばあんたソリエンとか言う町で軍団作ってるって聞いた事があるんだけどこれがそうなの」
「そうだ。『自警団カリヤ』と言う基本的には民衆を守る自警団だ」
「その自警団が何でうちに来てんのよ」
「今回の敵は悪魔が絡んでるかも知れんからな。そうなれば一国の問題ではないだろう」
「つまり人族も獣人族も含めた問題だと言うの」
「そうだ。だから獣人国からも軍団を出した」
「あのハンナって何者なのよ。ただの魔法使いじゃないわよね」
「あいつはゼロマの後釜、獣人国第二の英雄ハンナだ」
「それってあの恐れられた『殲滅の魔女』って事」
「まぁ、そうとも言われてるがな」
「相変わらずあんたは何て弟子を育ててるのよ。それじゃーもう一人の女は何よ。まさかあんたの同類って事はないわよね」
「まぁ似た様な者かな」
「ほんと冗談はよしてよね。あの軍団も含めて、これじゃバケモノだらけじゃないの」
「その方が今回の作戦には最適だろう。その中にはお前も入ってるがな」
マテップ公爵領のマテップ公爵の館に行ってみるとそれはもう城だった。
王城にも匹敵する様な城が築かれていた。そしてその前には10万にも及ぶ軍勢が陣を構えていた。
王都からの攻撃を予想していたのだろう。これはもう国対国の戦争に等しい。
「随分集めたものだな。なる程これじゃー態度も大きくなる訳だ」
「冗談じゃないわよあんた。これどうすんのよ」
「どうするもこうするもやるしかないだろう」
「どうやって」
「こう言う時はやはり魔法使いの出番だろう。一つ大きいのをぶっ放してやれ」
「あんた人使いが荒いわね」
「よろしいのですか、お師匠様」
「構わん。やってやれ」
ゼロの一言で二人の最強の魔法使い達は超極大魔法を放った。
それはカラスが王都のスタンピードの時に使った爆裂魔法であり、ハンナが獣人国キングサルーンの放棄に反対し抵抗する者達を殲滅した殲滅魔法だった。
この二つのメガトン級魔法の複数回の炸裂により10万の兵力は一気に半分に落ちていた。
そこに追い打ちを掛けたのがゼロのこれまたメガトン級の手榴弾攻撃だった。
これによりマテップ公爵側の軍団はほぼ壊滅状態だった。
誰が信じるだろうか。たった数分間で10万もの兵力を壊滅出来る者達がいるなど。それはまさにバケモノ以外にはなかった。
「よし、カラス、ハンナ、お前らは少し休んでていいぞ。ここから先は白兵戦だ。この魔力回復ポーションでも飲んどけ」
後は城に立て籠もる敵の殲滅になる訳だが、正直な所ゼロはそう簡単ではなさそうだと思っていた。
敵の兵力の中に悪魔の匂いがプンプンしていた。まさかこれ程の悪魔が出現していたとは想像外だった。
余程本腰を入れて人間界征服を計画しているようだ。
「ダニエル、ダッシュネル。気を引き締めてかかれ。相手は人間だけじゃない様だ。悪魔も混ざってるぞ」
「悪魔ですか。それは腕が鳴りますね、師匠」
「了解しました、ゼロさん」
「ははは、お前らいい根性してるな」
「俺達みんな師匠の弟子ですから」
「おい、みんな行くぞー」
「おおー!!!」
こうしてゼロ達は最終戦闘に突入して行った。先頭で特に悪魔を倒していたのはゼロとシメ、それにダニエルとダッシュネルだった。
この二人なら悪魔が相手でも後れを取る事はなかった。
幸な事に悪魔側でもまだそこまでの上位の悪魔は召喚出来てなかったようだ。
精々が下位からその下、上級、中級悪魔程度だろう。これなら今のゼロ達の軍団でなら十分に戦える。
特に目につく悪魔はゼロとシメとで殲滅した。まさか悪魔側でも自分達を倒せる人間がいるなど想像もしなかっただろう。
城の中心にはマテップ公爵とその軍師として一人の悪魔が付いていた。この悪魔はかなりの高位の悪魔の様だ。
「グルシャ殿、どうなっておるのだ。貴殿の部下達が倒されておるではないか」
「ほー人間にしてはなかなかやるものだな。それにあの獣人達は何だ。あんな獣人がいるのか」
「グルシャ殿、大丈夫か」
「問題ない。わしとここにいるこの二人の部下は特別だ。この三人でこの国くらいはいつでも潰せるわ」
「左様か。それならいいのだが」
そしてゼロ達は遂に本体に迫った。そこには魔力を回復したカラスとハンナもいた。
「大したものだ。人の身でここまで迫って来れるとはな。いや、獣人もいたか」
「ほーお前がここの参謀と言う訳か。悪魔だな」
「ほーわかるのか」
「ああ、色々経験をしてるもんでな」
「しかしそれもここまでだ。ここがお前達の墓場だと知れ」
そしてこの悪魔は本性を現した。両隣にいた二人も。この魔圧は正に王都のマテップ公爵家にいた悪魔に等しい物だった。
残念ながら「自警団カリヤ」と「遊撃騎士団」の面々では立っている事も敵わなかった。やはり上位悪魔と言う事か。
「ほーこれでまだ立っていられる者がいるとは驚きだな。貴様ら何者だ」
マテップ公爵は従者の結界に守られていたので立っている事が出来た。
「お前こそ何だ。魔界将か」
「わしを甘く見るな。わしは魔界将軍だ。お前らの様な虫けらなど一吹きで消してやるわ」
魔界将軍か。それなら何処の魔界将軍だ。ゼロは以前の記憶を辿っていた。まず西と南ではない。
北の四天王は穏健派だと聞いていた。なら残るは東か。
「そうか、お前は東の四天王カイヤルの所の魔界将軍か」
「ば、馬鹿な。何故お前がそんな事を知っている。こっちの世界の者が知っている訳がなかろう」
「情報は何もお前達の世界だけの物じゃないと言う事だ」
「良かろう。それもまとめて消し飛ばしてやるわ」
「いいだろう。ここでは少し狭い。ついて来い」
ゼロはカラスにマテップは任せたと言って、シメとハンナと共に飛び出して行った。
残っていたマテップ公爵の取り巻きを片付けたカラスはマテップ公爵に最終宣告を告げていた。
「王の命により、そなたを反逆者として処罰する」
「馬鹿な、何を言っておる。わしは王の叔父だぞ。お前如きにどうこう出来る相手ではないわ」
「悪いわね、今のあたいは王から全権委任を受けてるのよ。私の判断で処分するわ」
「お、おのれー、例えカラスと言えども今のわしには指一本触れられんわ。わしには力があるのじゃ」
そう言ってマテップ公爵は魔力を解放した。恐らくは魔紛石で増強された魔力だろう。
それなりには強い魔力だったが、カラスの前で屁のツッパリにもならなかった。一瞬にして灰にされてしまった。
「流石は中央モラン人民共和国の大魔法使いと言われるお方です。お見事です」
「あんた、それ本気で言ってる」
「も、勿論ですとも」
「まぁいいわ。それよりあいつらの戦いを見に行くわよ」
「承知!」
カラス達全員は城外の荒野で繰り広げられる人外の戦いを見ていた。それはカラスに取っては500年前の人魔大戦を思い出させた。
それほど途方もない戦いだった。上位魔族、それも魔界将軍とはこれほどの物なのかとダニエルもダッシュネルも思っていた。
その横にいる二人の悪魔、従者も並みの悪魔ではなかった。恐らくは魔界将に匹敵するだろう。
ただゼロとシメには精神系の魔法は効かなかった。そもそも二人には魔力がないのだから。
だから物理系の魔法だけだ。それもゼロとシメの防御気圧の前では効果はなかった。後は肉弾戦だ。
それはハンナにしても同じだった。ハンナの防御魔法は悪魔の魔法を全て跳ね返していた。
これでは埒が明かないとこちらも肉弾戦に切り替えた。
しかしそれこそがゼロ達の狙いだった。ゼロの使う波動拳はその為にあった。しかもシメもハンナも既に皆伝の域に達していた。
三組の壮絶な肉弾戦は徐々に悪魔達の劣勢を誘っていた。
「な、何だこいつらは。どうしてわれらと接近戦が出来るのだ」
「ねー聞いていい。あれは何なの。どうして3人共悪魔とあんな戦い方が出来るの?」
「あれはゼロ師匠の得意とする戦闘術、波動拳です。そしてシメ様もハンナ様も師範クラスですので」
「あのハンナって魔法使いじゃなかったの」
「そうですが戦闘術もゼロ師匠から習われたそうです」
「ほんともう滅茶苦茶ね」
そして二人の従者はシメとハンナの波動寸勁で命を絶たれた。
残った魔界将軍グルシャは魔界鎌で戦っていたが、ゼロに懐に入られ、これまた波動寸勁で体に大穴を開けられた。
「く、くそー覚えておれ、このままで終わると思うなよ」
その時グルシャの体から途方もない魔力が膨れ上がっていた。これは自爆魔法か。
「お師匠様、危ない」
そこに飛び込んで来たのがハンナだった。ハンナは闇魔法でグルシャの自爆魔法を相殺してしまった。
それを見たカラスは驚いていた。あの魔法はかって見た事がある。あの500年前の魔王との戦いで。
全ての戦いが終わった。これで一応この世は救われた事になる。一時的かも知れないが。
ただカラスはゼロを連れ出してこう聞いた。
「あの子は何なの。何で悪魔の魔法を使ってるのよ」
「何だ悪魔の魔法と言うのは。そんな物があるのか」
「あるわよ。魔法にも色々種類があるのよ。特にあの闇魔法は悪魔が得意とする魔法なのよ。あの子は誰から魔法を習ったのよ」
「誰からと言われてもな。俺は魔法は使えんしな。あれは初代の英雄ゼロマから習ったんだろう」
「じゃーなに、あのゼロマ、いえピョンコは悪魔だったってこと」
「そんな訳あるか。あいつは極普通のウサギ獣人だったぞ」
「その極普通と言うのは疑問だけど、じゃピョンコは誰に魔法を習たのよ」
「あれは俺達のパーティ仲間の魔法使いからだ」
「あんたにそんなパーティ仲間がいたの。それってまさか悪魔じゃないでしょうね」
「さーどうだったかな。もう100年も前の事だ。忘れた」
「本当にいいのそんな事で」
「良いんじゃないか。ハンナは悪魔じゃないんだし。それに悪魔に対抗出来る魔法を持ってると言う事だろう」
「それは、まぁそうだけど・・・」
このマテップ公爵の反乱はこれで決着がつき、王に報告された。
ただし今回の件に悪魔が絡んでいた事が問題になった。もしかすると魔王の復活が本当にあるのかどうかと言う事が。
これはやはり魔界で調べてみるしかないかとゼロは考えていた。
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