第8話 中央モラン人民共和国へのキャラバン
中央モラン人民共和国へ向けてのキャラバンは四つのパーティ20人とゼロ達3人のパーティが受け持つ事になった。
各パーティは5人づつを擁し、それぞれ四つの荷馬車と依頼主の馬車一台を守っていた。
基本的にはこれで足りると言う事になる。ただゼロ達の追加組は予備でありリスク回避の意味もあった。
つまり一番リスクの大きい前後から襲われた時、ゼロ達を盾にして時間を稼ごうと言う判断だ。まぁ使い捨てと言われればそうかも知れない。
それはゼロ達のパーティの中に獣人が入っていたからと言ってもあながち間違いではないだろう。
しかし彼らはこの獣人が自分達よりも遥か高みにいるとは誰も知らなかった。
彼ら護衛についた冒険者達は皆基本Cランクをクリアしていた。そして各パーティのリーダー達は皆Bランクだった。
だから全員がCランクのゼロ達は一段下に見られていた。まぁいつもの事なのでゼロ達は気にも止めなかった。
「前方3キロの地点に敵が潜んでいる。数は30人程だ」
「おい、何でそんな事が分かる。誰もそんな遠くまでの索敵能力は持ってないぞ」
「別に信用しなければそれでいい。いずれはわかる事だ」
『ハンナ、後ろはどうだ』
『はい、こちらも40人程がついて来てます』
『随分と大勢でのお出迎えだな。一体何を運んでいるんだ』
「おい、そろそろ戦闘領域に入るぞ。準備しておけ」
「何だと、お前何を言っている」
その時左右の茂みから盗賊達が襲い掛かって来た。
馬車は道の右端に寄せリーダーは馬車の左、道側の馬車の中央に位置していたので馬車の右側は死角となっていた。
だから道の左側からの攻撃は囮で本体は道の右側から襲って来た。
そこにはそれぞれ二人の護衛が付いていたが地の利が悪く戦うには不利だった。
そこを外側から狙われ1/3近くの護衛の命が奪われた。ゼロは先頭の数人を倒した後、すぐさま取って返して草原側から賊の処分に向かった。
シメとハンナも同じように後ろの敵を倒した後、シメを道側に残してハンナは草原側の賊の殲滅に向かった。
これで馬車の右側の護衛は3人を残して7人が殺されたが賊はゼロとハンナで全員を処分した。
賊側は半分の勢力が殺され引き上げて行った。護衛側は7人が死亡、怪我人は4人に及んだ。
怪我の方はゼロの持っていたポーションと薬草で何とか回復に向かっていた。
今回の事に関しては幸い荷物は無事だったが護衛としては失敗だったと言わざるを得ないだろう。
全てにおいて裏をかかれていた。もしゼロ達がいなければ半数以上が死んでいただろう。
何故こんな不手際を。それは経験不足からだ。この100年まともな戦争もなく冒険者達も人間相手に戦う経験がなかったからだ。
これはゼロが獣人達相手に戦った時も感じた事だが、ヒューマンでは尚更経験が少ない。冒険者ランクなど実践の場では全く役に立たないと言う事だ。
「すまん、もう少しあんたの言う事を聞いておけばよかったよ」
「済んだ事は仕方ないだろう。それよりもこれから先どうするかだ」
「俺達は7人失ったから残りは13人だ」
「それに俺達3人を入れて16人か。仕方ないな構成を変えるぞ。依頼主の馬車は4人で守ってくれ。後の荷馬車はそれぞれ左右で一人づつだ。俺ともう一人で最前線を守る。そして一人を殿に置く。取り敢えず次の町までこれで行こう」
「わかった。そうしよう」
このキャラバンの護衛責任者であるパーティ「クルド」のリーダー、ハイネルグはゼロと一緒に最前線につくと言った。
その代わりシメが依頼主の馬車の警護についた。ハンナはそのまま殿を守った。ハンナの索敵能力はゼロ並みに高いからだ。
「なぁ、あんたら一体何を護衛してるんだ」
「それが俺らにもよくわからんのだ。ただ依頼主は大事な商品だと言っていた」
「大事な商品ね。それにしては賊は結構組織立ってたな」
「何だって。単なる山賊じゃないとないと言うのか」
「多分な」
「どう言う事なんだそれは」
「それは恐らく次の攻撃ではっきりするだろう」
キャラバンはしばらくは何の問題もなく進行を続けていたがゼロが急に止まった。
「どうしたゼロ」
「向こうに両端を断崖で囲まれた谷道があるだろう」
「ああ、それがどうした」
「あそこに敵がいる。多分前後を挟み撃ちにする気だろう」
「何だって。一体どうやって。山崩れでも起こすつもりか」
『ハンナ、来てくれ』
『はい、お師匠様』
ハンナは後ろの殿から離れてゼロの横にやって来た。
「後方の状態はどうだ」
「また40人程がついて来てます」
「やはりな」
「おい、そんなにか。この前半数近く倒したのではないのか」
「多分援軍が来たんだろう。それよりも問題は前にいる奴らだ。多分魔法使いだろう」
「そうですね。かなり使えそうですね。多分AランクとBランクの混合かと。それが10人ほど」
「おいおい、冗談じゃないぞ。それじゃーこっちは全滅じゃないか」
「仕方がない。それじゃー先制攻撃と行くか。ハンナ一発デカいのを噛ましてやれ」
「わかりました」
ハンナが打ち上げた火の玉は渓谷の上空で炸裂し数十もの火の玉となって断崖を粉々に粉砕した。
そこにいた魔法使い達も皆粉々になっただろう。こんな大魔法を誰が予想しただろうか。Aランクの魔法使いでもこんな魔法は使えなかっただろう。
「おい、何なんだあれは。あんな魔法を使える者がこの世にいるのか」
ただしその為に行く道は崩れた岩石で塞がれてしまった。これでは完全に行く手を阻まれた事になる。
「シメ、お前の出番だ。『竜波』であれを吹っ飛ばしてやれ」
「わかりました」
シメは『零勁』の最終形『竜波』で全面を防ぐ岩石群を全て吹き飛ばした。これにはここにいた護衛達全員もあまりの驚きで声が出なかった。
あの魔法と言い、この技と言い。この二人はもうバケモノとしか言いようがないと。
この様子を見ていた後方の賊達もこれでは幾ら命があっても足りないと怯え逃げ去ってしまった。
そこでゼロは先頭の馬車から依頼主を引き出して、
「では話してもらおうか。俺達は何を運んでいる。言いたくなければ俺達はこのまま帰る。お前の命など数時間も持つまい」
依頼主ですらこの人外の二人には怯えていた。そしてこの二人を従えるこの男は何者だと。
「わかりました。お話いたします。これは中央モラン人民共和国の本店よりの指示で王都まで運ぶ物でございます。私にも中身に関しては知らされてはおりません」
「ほう、依頼主たるお前でも知らないのか。では何処からこの品がやって来た」
「はい、品物は州都アブラハムの支店より送られて来た物でございます」
「アブラハムか。あそこには・・・。品物を見せてもらってもいいか」
「それは構いませんが、中身はわからないと思います」
そう言われて荷馬車の中を覗いてみると大きめの木箱には鍵がかかっていた。
それだけなら普通の荷物の様に見えるが、ハンナによれば封印魔法が施されてあると言う事だった。
「外せるか」
「はい、お安い御用です」
そして封印魔法を解いてゼロが錠を解除するとそこには数個の球が入っていた。
その球は魔界でもこの世界でも見た事のある物だった。
「お師匠様、この球は」
「そうだ、お前も見た事があるだろう。これは魔素球と言って中には魔粉石と言う魔王の魔力の粉末が入ってると言われているものだ」
「その様な物をどうして」
「よく分からんがろくな物には使わんだろうな」
「どうします、お師匠様」
ゼロは少し細工をしてから全てを元に戻しておいた。
「いいだろう、それでは護衛を続けてやるか」
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