第5話 冒険者クラウン

 ゼロはデカ物から聞き出した「ドルグ」の居場所に向かっていた。


 この「岩石ドルグ」と言うのは情報を集めてみるとかっての獣人国時代にあったクラウンと同じ様な事をやっている様だった。


 つまり小さなパーティを自分の配下に於いて片っ端からギルドの依頼を搔っ攫い自分の配下に仕事をやらせる。


 そして本人は何もしないでそこからの利益を吸い上げる。飛んでもない奴だ。


 ただその規模が大きくなると誰も逆らえなくなり彼のクラウンに属さないと仕事が回って来なくなるので「岩石ドルグ」の下請けに入ると言う形になってる様だ。


 これではあの獣人のクラウンと全く同じではないかとゼロは思った。ヒューマンの世界になってもクズのやる事は変わらないのか。


 しかしそれを放置するギルドもギルドだ。


 確かに依頼は早い者勝ちだ。しかしこれでは力のない者には仕事が回らなくなってしまう。


 何の為にハンナが汚名を着てまで国替えをしたんだと言う事になってしまう。本当に獣人もヒューマンも狂ってやがるとゼロは思っていた。


『なら後はやるしかないか「ヒューマン狩り」を』


 そして再び「戦場の死神」が動き出した。


 この町の地理は知り尽くしている。「岩石ドルグ」の場所も確定出来た。


 ゼロはいつもの様に真正面から入って行った。


 初めは慌てふためいたクズ達の細やかな反撃もあったが皆秒殺された。


 ただし今回は完全に息の根を止めるのは止めておいた。ゼロにしては優しい事だ。


 彼等もまた被害者と言えば言えなくもない。しかしそれに甘んじそれを助長した罪は重い。冒険者としては失格だと思っていた。ならそれなりの罰は当然だろう。


「お前か『ドルグ』と言うのは」

「誰だ貴様は」

「俺はただの冒険者だ」

「そのただの冒険者が何用だ。そうか俺の所から仕事が欲しくなったか」

「そうだ」

「良いだろう。腕は立つ様だからな。5分5分で仕事をやろうじゃないか」

「それは俺の取り分が半分と言う事か」

「そうだ。破格だぞ」


「気に入らんな」

「何だと。なら幾ら欲しいと言うのだ」

「全部だ。お前の持つ組織ごとな」

「雑魚が舐めるのもいい加減にしろ。俺を誰だと思ってる。Bランクのドルグ様だぞ。俺に勝てるとでも思ってるのか」

「勝てるさ、そんなクズ程度にはな」

「おい、皆んなやっちまえ」


 そこから先は戦いにすらならなかった。そこにいるのはグルドの幹部達。ゼロは今度は完全瞬殺を行った。


「ま、待て。話し合おうじゃないか。分かった。お前には100%やる。それに俺の共同経営者と言う事でどうだ。悪い話じゃないだろう。それに俺には後ろ盾がいる。だからこの商売は絶対に壊れない。どうだ良いだろう」

「良い話だな。ただその夢は地獄で見るんだな」


 そう言ってゼロはドルグの首を刎ねた。


『後ろ盾か。まぁそんな事だろうとは思っていたがな』


 その後ゼロはドルグの証拠書類を集めて、冒険者ギルドのギルドマスターの部屋に向かった。


「ゼロさん、勝手にギルドマスターの部屋に行かれては困ります」

「これはここのギルドの一大事だ。通るぞ」


 ゼロは職員の止めるのを無視してギルドマスターの部屋の扉を開いた。


「これはゼロ君だったか。何の用だね」

「土産を持って来てやった」


 そう言ってゼロはドルグの首をギルドマスターのテーブルの上に置いた。


「こ、これは何の真似だね。これはドルグか」

「そうだあんたのお仲間だ」

「な、何を言っている」

「ここにこいつがやっていた搾取の証拠もある。そしてそこにはあんたの名前もある。これを王都の冒険者ギルドの本部に出してもいいんだがな」

「ば、馬鹿な。そんなものは偽物に決まっている。証拠などは何処にもあるはずがない」

「口を滑らせたな。それは俺の仕事ではない。本部の調査官の仕事だろう」

「ま、待て。金をやろう。一生遊んで暮らせる金だ」

「冒険者を舐めるなよ!」


 その時ゼロの威圧がギルドマスターのカルソンに襲い掛かった。カルソンも一応はギルドマスターだ。並みの威圧ではビクともしないがこれは次元が違った。


 身動き一つ出来ず心臓が握り潰される圧迫を受けていた。このままでは本当に死ぬと思った。


「よく聞け。冒険者ギルドは冒険者の為にある。それを冒涜する奴は俺が許さん。例え相手が誰であろうとな。『殲滅のヒューマン』の名に懸けて潰してやる」


 そしてゼロは出て行ったが、その後に残ったギルドマスター、カルソンは息も絶え絶えになっていた。


『まさか、あれが本物の「殲滅のヒューマン」だったのか。獣人国3万もの軍をたった一人で殲滅したと言う』


 その日の内にカルソンは本部に対してギルドマスターの辞表届を出してソリエンを去って行った。


 勿論身の回りが危なくなったので逃げたのだがその行き先は誰も知らないと言う。


 その後本部から代わりのギルドマスターが入り一応クラウン問題は片付いた。そしてカルソンは指名手配を受ける事になった。


 ゼロとシメはある所に来ていた。


「ゼロさん、ここは何なんですか」

「ここか、ここはある者達に取っての聖地だな」


 ここは何の変哲もない広場だがその端に誰の者ともわからない墓石が立ててあった。それも蔦で覆われて墓石だともわからなかった。


 しかしその墓石の裏側には「カリウスの剣の聖地」と彫られてあった。


 それを蔦で覆い隠したのも獣人達に分からなくする為だったのだろう。


「『カリウスの剣』って何なんですか」

「『カリウスの剣』と言うのは有名なヒューマンの冒険者パーティの名前だ。しかも全員が超Aランクと言う世界屈指のパーティーだった」

「じゃーその人達は」

「もう100年も前の話だ。全員死んでいるだろう。いや、もしかしたら一人生きてる奴がいるかも知れないな」


「100年経っても生きてるなんて化け物じゃないですか」

「この世界はそう言う世界だ。魔族や悪魔、エルフ族と言うのは長寿族でな、200年や300年は軽く生きる。下手をすれば500年でも生きるだろう。彼らの中に一人エルフ族がいた」

「そんなに長生きなんですか、それじゃー2025年問題処じゃないですね」

「何だそれは」


 その時後ろで人の気配がした。


「あんた達は確か『自警団カリヤ』の人達だったか」

「ああ、あの時の。ここにはどうして」

「あんた達こそどうしてここに」

「ご存じですか、ここがどう言う所なのか」


「知ってる『カリウスの剣』の聖地と呼ばれている所だろう」

「どうしてそれを。それを知っている者はもう殆どいないはずなんですが。俺達も話に聞いていただけで今回初めて来たんです」

「ダニエルさんに教えられたのか」

「そうです。でもどうしてあなたが」

「俺はここから冒険者を始めたからな」

「そうでしたか」


「ここは俺達の使う捕縛術の祖師の聖地なんです」

「つまりカリヤスの技と言う訳か。しかしその技は『カリウスの剣』全員が使えたはずだが」

「そうなんですか。私達はカリヤス様からの伝承だと聞いてます」


 この技はゼロが『カリウスの剣』全員に教えた技だ。だから全員が知っていておかしくはない。しかし何故カリヤスだけなんだとゼロは思っていた。


 その時周りの雑草をかき分けて別の一団が入って来た。


「団長、どうしてここに」

「バロム、ご苦労さん、サルーンでの騒動が片付いたのでここに来た」

「そうでしかた。ご苦労様でした」

「ん?そこの御仁は」


「よう、久しぶりだなダニエル。元気にしてたか」

「ゼ、ゼロ師匠じゃないですか。お久しぶりです。4年振り位ですかね」

「もうそうなるか」

「はい、獣人国遷都以来ですから」

「そうだったな」

「で、師匠はどうしてまたここに」


「団長、師匠とはどう言う事ですか。この方は一体」

「そうかお前はまだ新しいから知らなかったな。俺達の武術の師匠だ。俺達の武の祖師はカリヤス様だが、このゼロ師匠がそれを進化させてくださったのだ。俺達が今使ってる技がそれだ」

「それは本当ですか」

「ああ、本当だ」


「師匠はこの地をご存じだったのですか」

「ソリエンの『カリウスの剣』と言えば有名だからな」

「はい、歴史に残る冒険者パーティです。ところでそちらのご婦人は」

「ああ、これは俺のパートナーでシメと言うんだ」

「シメと言います。よろしくお願いいたします」

「団長、この人も凄いんですよ。野盗二人を一瞬で取り押えてしまったんです」

「ではこの人も師匠のお弟子さんですか」

「さーどうかな」

「その様な物です」


「ところでダニエル、お前がここに来た目的は聖地詣で以外にまだ何かあるんじゃないのか」

「はい実は一つ疑問に思ってる事があるんです。私達の技は捕縛術、言ってみれば柔の技です。じゃーその反対の剛の技はないのかと」


「やはり気が付いたか。ある、剛の技がな」

「ほ、本当ですか」


 ゼロはダニエル達に捕縛術の上位技と武器術を教えたがこの捕縛術のもう一方の技は教えていなかった。それが剛の技だ。


『そろそろ初級波動拳を教えてもいい頃合いか』

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