ep.12-1 見知らぬ病室
ベッドに寝ていた男の目がゆっくりと開く。
男は上半身を起こして座り、周りを見回す。
部屋は質素な作りになっていて、ほとんど何もない。
窓は開いていて日光が差し込み爽やかな風が部屋の中に吹き込んで、カーテンが揺らめいている。
「ようやく起きたね~」
「……」
男は声の方に振り向く。
まだ起きたばかりで見えていないのか、目をこすりながら凝視した。
目の前の椅子に座っている人を認識したようだ。
「……魔法使いのアストラさんか」
「そうだよ大将。元気~」
アストラは大将に手を振った。
再び大将はキョロキョロして尋ねる。
「ここは?」
「病院だよ~3日ぐらい寝てたのかな~」
アストラはいつも通り間の伸びた声で大将に話しかける。
大将は少し動こうとする。
「うっ……」
「まだやめておいた方が良いんじゃないかなぁ~。死にかけてたし~」
「……そうか。あの晩、俺は刺されたのか」
「だから困ったことあったら呼んで~って言ってたのに」
「……」
アストラの言葉を聞き流して大将は自身の状況をゆっくりと思い出しているようだ。
そして大切なことを思い出したのか、アストラの方を向いて叫ぶ。
「あっ!!すずねちゃんは!?」
「大丈夫~生きてるよ~」
「よかった……」
大将は少し安心する。
アストラは顔色一つ変えずに話を続ける。
「生きてるけど、今が一番大切な時かも~」
「……それはどういう意味ですか?」
アストラは大将の言葉を無視して、読んでいた本を片づける。
「はぁ……いつものことか」
大将は顔をしかめながらため息をつく。
そして、アストラは横に立てかけていた杖を持って立ち上がる。
「勇者のバカから見とけって言われたから居ただけなんで、起きたんだったら帰るね~
起きたこと言いに行かないと怒られちゃうから~」
「ちょ、ちょっと!」
「なに~??」
呼び止められたアストラは不思議そうな顔で大将の方を向く。
大将は痛みで顔を引きつらせながらも尋ねる。
「以前、俺の店にうどん食いに来た時のこと覚えていますか?」
「もちろん~あのうどん、おいしかったからね~」
「その時、すぐに驚くことあるって言ったのも覚えていますか?」
「ぜんぜん覚えてないかな~」
アストラは興味なさそうに答える。
大将はそれでも尋ねた。
「アストラさん……すずねちゃんについて何か知ってることありますか?」
「もちろん、たくさんあるよ~」
「なら……」
「でもね、大将」
大将の言葉を遮って、アストラは話を続ける。
「大将に言えることは何一つないから」
きっぱりとした拒絶を口にした。
それでも大将は食い下がって尋ねる。
「どうしてですか?」
「だって……これは大将とすずねちゃんの物語だからね~。
あたいみたいな不純物は絶対に入ってはいけないから。
透明な結晶がくすんじゃう」
「……」
アストラの言っている意味が分からないのか、大将は黙ってしまう。
その様子を見たアストラは少し悩んで口を開く。
「まぁ、私の言葉なんて気にせず過ごせばいいと思うよ~。
いや、大将が起きた時にあたいが言ったことはちゃんと気にしたほうがいいかも。
まぁ、じゃあね~。またお店でおいしいご飯でもおごって~」
アストラは黙っている大将を尻目に部屋の扉を開け、部屋から出て行った。
出て行ったのを見た大将は大きくため息をついた。
「はぁ……いつも通りわからないことを言ってるし、やっぱりはぐらかされるし」
大将は座りながら首を落とす。
そして外を眺め呟く。
「すずねちゃん……大丈夫かな……」
コンコン!
今閉まったばかりの扉からノックの音が響いた。
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