ep.11-5 雷のなかで

一帯は暗雲が立ち込めていて、嵐のような雨と風が吹き荒れる。

廃墟のいたるところに、いくつもの雷が落ちている。





すずねは再び大将の胸に顔をうずめて泣いていた。





猫又とルトはつばぜり合いをやめて、周りをキョロキョロとしていた。

さっきまで雨一つ振っていなかったにもかかわらず、

周りが嵐のような状況の上、雷が周りに降りそそいでいる状況におかしいと気づいたようだ。



すずねと対峙していたオークは目の前に落ちた雷に驚き、戸惑う。

牛刀を持つ手が少し震えていた。そして呟く。



「ど……どうなってやがる……」




オークは自然と後ずさりする。

そのオークとすずねの状況に気づいた猫又は、

ルトを無視してすずねの方に走り、叫ぶ。



「これはおかしい……明らかにヤバイ!あいつをやらないと!!!」

「ま、まて!!!」



ルトは止めようとするものの、猫又のあまりの速さにおいかけることができない。

猫又は短剣を握りしめ、すずねに一直線に向かう。

そして叫ぶ。



「恨むなとは言わない!あの世で仲良くな!!」



そう言うと短剣ですずねを刺すために近づく。

すずねは、声が聞こえたのかそれとも気まぐれなのか、

襲ってくる猫又の方をチラッと見た。



バリン!!!



雷がすずねの目の前に落ち、猫又に直撃した。



「にゃあああああああ!!!!」



猫又は大声で叫ぶ。

だが、雷の轟音で叫び声は全く聞こえない。

そしてすずねは叫ぶ声には目もくれず、再び大将の胸で泣き続ける。



雷を受けた猫又は倒れこんだ。

後ろから猫又を追いかけていて、一部始終を見たルトも立ち止まり呟く。




「どうなってやがる……嬢ちゃん!!」




ルトは倒れている猫又をスルーしてすずねの方に向かう。

すずねの周りには雷が今も無数に落ちている。




バリン!!!




「ぐぅ……」



雷の一本がルトに直撃し、声が漏れた。

だがルトは倒れずにそのまま走り続けた。

走っている途中もルトの傍に雷が落ちる。

だが、ルトは全く気にせずにまっすぐすずねの方に走り続けた。



ついに、すずねの傍までたどり着く。

そしてすずねの肩に触れようとした瞬間だった。




ゴロゴロ……

バリン!!!!!



「ぐぉぉぉぉぉ!!!!!」



これまでにない大きさの雷がルトに直撃した。

すずねは真横で叫ぶ声が聞こえたのか、ルトの方を見る。

雷に打たれたルトは、すずねの横に倒れ込んだ。




「る......と……」




すずねはすぐには現状を理解できないようだった。

ルトは倒れつつ、すずねの方を少しニコリとして話す。




「ガ……ハハ……」




「嬢......ちゃん......気にする......な......」




そう話すと、ルトは意識を失ったようだ。

すずねは目の前で倒れたルトと大将を交互に見る。




「あっ……あっ……」




大将に続いてルトも動かない状況をゆっくりと把握しているようだ。

そして現実を見たくないかの如く、口を開いて叫んだ。






「うあああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」






すずねからはこれまでで聞いたことのないような叫び声が廃墟に響く。

その瞬間、すずねの周りには嵐がこれまでになく強く吹き荒れ、

廃墟に合った細かい壁などは全て吹き飛んだ。

そして轟音と共に無数の雷が一斉に落ち、そこにいた全員の視界は雷の光で真っ白になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る