ep.5-2 魔王の側近アクア

いつもと同じく、人間と魔族の両方が店に次々入ってくる。


「今日のおすすめは?」

「さんまのしおやき!!」

「じゃあ、それを3つよろしく!」

「たいしょう、おすすめ3つ!!」

「はいよ!」


すずねも慣れてきたのか、注文を取り大将にオーダーを通す。

明らかにしっぽは2本になっているものの、店に来るものは気にしていなかった。

ただ、相変わらずすずねを口説こうとする者はたくさんいた。


その様子を大将は目を光らせながらも次々とオーダーを聞き、料理を作り続ける。

夜ご飯のピークが過ぎたのか少しずつ店の中が落ち着き始め、席にも空きが見える。

すると、扉が開いた。

大将が反射的に声をかける。



「いらっしゃい!」

「一人なのですが、入れますか?」

「あぁ、魔王の側近のアクアさん、お久しぶりです。お好きな席へどうぞ」

「えぇ、ありがとう」



アクアと呼ばれた女性はニコッとし、きらりと光る八重歯が見える。

すらっとした高身長の女性で、髪が腰のあたりまで伸びていた。

また、頭には魔王と同じく二本の角が生えている。

そして全身、黒の服装で身を固めていた。

大将がいるカウンター席の方に行き、座って話しかける。



「大将、今日のおすすめは?」

「今日は良いサンマが来たので、サンマの塩焼き定食です」

「なら、それを下さい」

「はいよ!」



大将はさっそくサンマを焼きはじめる。

その様子をニコニコしながら見ていたアクアは慣れた感じで大将に話しかける。



「今日はおいしいご飯を頂きに来たのもありますが……魔王様から伝言を預かって来たのです」

「魔王……ルヴィアさんから?」

「ご依頼なさっていたでしょ?すずねさんのこと」

「あぁ。で、何かわかったのか?」

「それが……」



アクアはまわりをキョロキョロし、

他のテーブルで元気に接客しているすずねをチラッと見てから

声の大きさを大将に聞こえるギリギリぐらいまで落として話しかけた。



「魔王様が色々な調査機関を使って調査してくださったのですが……、

 結局わからなかったようです。すみません」

「そうか、仕方ないね……少し残念だけど、ありがとう」

「ただ……」



話すべきか少し悩んでいる様子だったが、意を決したのか口を開く。



「不思議なことに、妖狐の集落は見つかったのです」

「あれ?わからなかったって言ってなかったっけ?」

「そこです。妖狐の集落には魔王様直々に向かって、そこの長老に話をしたのですが、

『すずね』という子はこれまでいたことが無かったと」

「……」



アクアの言葉が衝撃だったのか、大将は黙ってしまう。

そしてゆっくりと口を開いた。



「うーん……例えば、すずねという名前が違うとかの可能性は?」

「魔王様はその可能性も聞いたらしいのですが、長老が生きてきたここ100年では、

 集落の外に言った妖狐はいなかったらしいです」

「そんなバカな」



オーダーを必死に聞いているすずねの方を大将はチラッとみる。

すずねはオーダーを聞いていて、またお客に絡まれていた。



「他に妖狐の集落がある可能性とかは?」

「その可能性はまだある思っています。なので、魔王様もまだ調査を続行しているようです」

「……とはいえ、簡単にはわからないということか」



大将は現在の状況を簡単に受け入れられないのか、

目を閉じて深く深呼吸をおこなった。

そして何かを思い出したのか、目を開いてアクアに尋ねる。



「そうそう、こっちも新しい情報があったんだ。

 すずねちゃんのもふもふ尻尾、今日の朝に二本になってたよ」

「尻尾が二本!?」



ガタン!!!



アクアは椅子を蹴飛ばして立ち上がった。

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