ep.1-4 『もふもふ』妖狐といなり寿司
大将は近寄って肩を叩いて声をかける。
「お、おい。大丈夫か??」
すると、女性は意識があるのか、コクッと頷く。
その様子を見て大将は少し安心したのか、女性を座らせて話しかける。
「どうした?何かあったのか」
「おなか……へった……」
女性は力なく、そして見た目よりも幼く、したったらずな声で答える。
大将はその返答に、少し悩んでいる。
そして何かを思い出したのか、カウンター奥の厨房に慌てて行く。
戻って来た大将の両手にはお皿があり、女性の近くに置く。
「おい!余りで申し訳ないが、いなり寿司なら食べれるか?」
「いなりずし?」
いなり寿司が何かわからないのか、首をかしげる。
大将が持って来たものを見て嬉しそうな声で叫ぶ。
「あぶらあげ!!」
「油揚げじゃないのだが......」
そう言うと、女性は座った姿勢ながら両手でいなり寿司をつかんで、
口の中に放り込む。みるみるうちに笑顔になった。
「おいしい!!」
「あぁ、良かった。どうせ店も開けられないし、好きなだけ食べてくれ」
大将はそう言ったからか、それともただお腹が減っていただけなのか、
女性は勢いのままにいなり寿司を口の中に運ぶ。
「おい、そんないっぺんに食べたら……」
ゴフッ!!
女性は大きくせき込む。
それを見た大将はカウンター奥からお茶を持ってくる。
「のどに詰まるから気を付けろって言おうとしたのに……ハイ、お茶」
「!!!」
女性は涙目になりながら、大将からのお茶を受け取る。
そしてお茶を飲み込んだ。
ゴクッ
飲み込むことができたのか、笑顔で大将に話す。
「ありがとう!!」
そして椅子に座ってから、再びいなり寿司をパクつき始めた。
大将は苦笑いしつつも、お腹が減ったのか、
椅子に座って一緒にいなり寿司を食べ始めた。
そして、大量にあったはずのいなり寿司は皿の上から消え去った。
「ごちそうさまでした」
大将は手を合わせて呟く。
女性も大将の真似をして呟く。
「ごちそう……さまでした?」
大将は温かいお茶を入れなおして、机に置いた。
そして尋ねる。
「なぁ、名前は何て言うんだ?」
「……すずね」
「すずねちゃんか。俺はこの町では大将ってみんなから呼ばれている」
「たいしょう?」
すずねは大将の意味が分からないのか、首をかしげながら聞き返す。
大将は苦笑いしながらも手を出す。
「そうだ。まずはよろしくな」
「うん!」
すずねはそれを笑顔で握り返す。
そして手を放してから大将はそのまま尋ねる。
「すずねちゃんはどこから来たんだ?」
「……わからない」
シュンとしながら、答える。
大将は困ったのか頭をかきながら、さらに尋ねる。
「じゃぁ、家に帰れる?」
フルフル
すずねは黙って首を横に振った。
大将はさらに困った顔をする。
「じゃあ、親は?」
フルフル
すずねはそれにも黙って首を横に振った。
大将は頭を抱えて立ち上がりながら呟く。
「衛兵を呼んでくるか……
一日に二回も世話にはなりたくないがなぁ」
すずねはその言葉が聞こえたのか急に立ち上がり、
さっきまでダランとしていた尻尾を上にピンと立つ。
そして急に涙目になりながら、大将に抱きついた。
大将は意味が分からず固まった。
「わたし、いきたくない」
「と言ってもなぁ……」
「わたしのいえは、ここ」
「……」
大将は困った顔をする。
すずねは涙目のまま大将の方を見る。
大将は大きなため息をついて話す
「はぁ……わかった。理由は聞かない。
とりあえず満足するまでこの店に泊まりな」
「!!!!」
すずねはパーと笑顔がはじける。
その顔とは対象的に、真剣な目で大将はすずねに話す。
「ただし、この店にいる間は店の手伝いをすること!
今日みたいにタダでは料理は出せないからね」
「うん!」
すずねは大きく頷く。
もふもふの尻尾は大きく左右にふられ、
満面の笑顔のまま大将に向かって話す。
「たいしょう、ありがとう!!」
「……どうしたしまして」
大将はすこし恥ずかしくなったのか、
すずねとは違う方向を向きながら、答える。
◆◆◆
このお話は人間と魔族の仲が良いこの世界において、
ライバル店や他の邪魔する者たちと戦いながらも、
祠の謎や過去を少しずつ解き明かしつつ、
大将と妖狐のすずねを中心に祠を直していく物語である。
◆◆◆
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