ep.1-2 大切にしていた祠が壊された!!

外で大きな音を立てて壊れた音が鳴る10分ほど前に、話はさかのぼる。



大将の店に乗り込んだ小料理屋『あさぎり』店長のオルクは

一人とぼとぼと歩きながら愚痴をこぼしていた。



「あの店が急に現れて2年。初めは雑魚店だと思って無視してた。

 こっちの店の方が圧倒的に大きいし、人気店だった」



オルクはつまらなさそうな顔をしつつ、愚痴が止まらない。



「だが、ここ2年であっちの店が人気になり、俺の店の売り上げががくっと下がっている。

 間違いなくそれまでタブーだった魔族を入れてやがったからだ。

 今回もやめろと言ってやったのに聞く耳を持たないとは。

 何か痛い目を見て貰わないと......」



オルクは大将の店の周りをグルグルと回りながら、

何かを考えているようだ。

そして大将の店の横に古びた祠があるのに気づいた。

それを見たオルクは顔を急に真っ赤にして祠の前に立った。



「あのクソ野郎が毎日拝んでやがる祠か......腹が立つ!!!」



そう言うと、祠の脚の部分を思いっきり蹴り飛ばした。



メキッ!!

腐っていた木を蹴飛ばしたためか、祠の脚が変な方向に折れ曲がる。

それを見たオルクは少し満足そうな顔をしている。



「いい気味だ!ざまぁ見やがれ!!」



祠は完全には壊れていないものの、脚の折れた方に少しずつと傾いていく。

大きく崩れるのは時間の問題のように見える。

それを無視してオルクは大将の店の方を見た。

するとそこには大きな箱が見えた。

上のふたが若干閉まっておらず、そこからゴミのようなものが見える。



「ゴミ箱か......まてよ!?」



オルクはニタッと気持ち悪く笑って、

自分のポケットからマッチを取り出した。



◆◆◆



「なんだ!?!?」



大将は店の横から聞こえた変な音で飛び起きる。

そして店の一階に降りた。

店の中をキョロキョロとするものの、何も変化がないのか大将は首をかしげる。



「何の音だったんだ?」



すると、引き戸がバン!と開いた。

急な音に少し動揺しつつも大将は反射的に声を出す。



「お客さん、まだ……」

「おい大将!やべえぞ!!!」



大将の目の前には、大将の背の高さの半分ぐらいの魔族が立っていた。

魔族は赤いベストのような物を着ていて、筋骨隆々の体つきであることがすぐにわかる。



「あぁ、ドワーフのルトさん。どうかしましたか?」

「なに呑気なこと言ってるんだ!早く外を見てみろ!」

「外……?」



大将はルトに言われるがまま、外に出る。

すると、店の外に置いていたゴミ箱が燃え上がっていた。



「み、水!!!」



大将は大慌てで店の中に水を汲みに行く。

ルトも大将の後を追っかけて店に入り、手伝っている。

大将とルトのバケツリレーによって、どうにか火は消えた。

店の外の焼け焦げたゴミ箱を見ながら、ルトは呟く。



「誰がこんなバカげたことを……大将の店が燃えたらどうするつもりだ?」

「わかりませんが……ルトさんのおかげで消し止めることができました。

 ありがとうございます!」



大将はルトの方を向いて頭を下げる。

ルトは恥ずかしいのか笑いながら答える。



「ガハハ!!儂は大将の夕飯が食えないのは困るからな!

 とりあえず、事件だと思うから俺は衛兵を呼んでくる。

 念のため今日は店を開かない方が良いかもな」

「ぜひお願いします。衛兵の方に従おうと思います。

 今回の一件、本当に助かりました。

 今度お店に来てくれたら、サービスするので是非」

「ガハハ!それは嬉しい。今日はいけないが、また来るわ」

「お待ちしております」



そう言うと、ルトは衛兵を探しに店から出て行った。

大将はルトを見送り、一人になってから大きく息を吐く。



「昼に怒鳴りこまれ、開店前にボヤとは。

 流石についてないケド......あの大きな音は......あっ」



祠は完全に崩れているのを見て、声が詰まる。

そして祠の方に駆けていき、しゃがんで祠の様子を見る。



「誰がこんなことを……」



祠の中の物は外に放り出されていた。石の置物の破片がいたるところに散乱している。

大将は何かを探すためか、壊れた屋根や扉をどかしている。



「あった......ただ、大丈夫なのは、これだけか」



大将はしゃがんで地面に転がっていた青い玉と石でできた台座を手に取る。

そして青い玉の方に息をフッと吹きかけて、自身の服で磨く。



「おいおい、傷だらけじゃないか……よく見ると大きなヒビも入っているし。

 さすがにこのまま放置するのはまずいなぁ」

「お主、それをどこに持ち帰るつもりじゃ」

「なに?」



大将は声の聞こえる方を向いた。

すると、白く長いひげを伸ばしたお爺さんがスッと祠の横に立っていた。

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