第4話
卒業式の翌日、ハルヒは学校を休んだ。
朝比奈さんが卒業してしまったショックは等しく俺も感じていたところだったから、まあハルヒにしたって鬼の霍乱ぐらい起こすだろうくらいに思っていた。
その日の夕方になって、校内巡回の当番教師が屋上の鍵が亡くなっていることに気がついて、マスターキーで解錠したところ、屋上の正面玄関側にぽつんと一組の上履きが見つかった。靴のかかとにハルヒの名前があったことから、すぐに大騒ぎになった。
靴はコンクリートの床に、つま先を屋上のフェンス側に向けてきちんとそろえて置いてあったという。屋上の鍵はすぐそばに転がっていた。
俺が話を知ったのがその時点で、校門に駆け付けた時にはもう警察が来ていた。制止を振り切って玄関から飛び出した俺を生徒指導の教諭が必死の形相で俺を止めなかったら、捜査に来ていた警察とトラブルを起こしていかもしれない。飛び降りの可能性があって警察が来たらしいが、玄関の屋根にも花壇側にも落下した痕跡はなかった。まるでハルヒが天に導かれて空中推挙でもしたとでも言うように。
鍵の紛失が発覚したのは卒業式の夕方だから、日中校内で誰も姿を見ていないことから、卒業式の夜にはハルヒは鍵を使って屋上に上がっていたことになる。夜に一人で屋上に上がったハルヒは何を考えていたんだろう。そして靴を脱いで……一体どこに消えたのか。
事態を正確に把握していたのは長門だけだった。
ハルヒの室内靴が屋上で見つかった翌日の放課後、部室に集まった俺と古泉に長門は言った。
「涼宮ハルヒはこの時空から完全に消失した」
つづく俺の矢継ぎ早の質問に長門は沈黙で答えるばかりで、古泉は古泉で機関員全員の「力」が消失していることに愕然としていた。
朝比奈さんとも連絡は取れなかった。表向きは進学ということになっていたがハルヒ以外の団員は誰一人信じてはいない。でも朝比奈さんは自分の本当の行き先を教えてくれなかったのだ。
一週間、そして一ヶ月がすぎる頃にはもう俺を含む誰もがあきらめていた。なにしろ長門(と情報統合思念体)ですら、「不在」は感知できても、どこに行ったのかはわからなかったのだ。
だが、ハルヒがいなくなったら長門も任務完了、とはならなかった。長門が情報統合思念体に残留申請をしたところ、あっさり許可が降りたという。理由は長門にも不明だそうだが、思念体の連中はハルヒが戻ってくる可能性があると考えているのかもしれなかった。
こうして誰もが予想し得なかった形で、「世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団」はあっけなく消滅した。
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