side② - 3
それから三好は俺の身体を殴ることが少なくなった。その代わりに、セックスの最中にピアッサーを取り出しては、至るところに穴を打ち込んだ。耳やこめかみだけではなく、
三好は俺に愛の言葉を囁くことも、俺の身体気遣うような仕草を見せることすらもなかった。三好に愛情や優しさなどというものは無い。それならばせめて、この身体にだけは三好に抱かれたという欲のカタチが残ればいいななんて思った。次第に痛みに慣れ、いつの日か快楽へ変わった頃、三好は珍しく自らとある想い人の話をした。
三好はその人をユウと呼んだ。ユウは三好の同級生で、三好の唯一の友達だったと彼は語った。三好はユウと共に過ごしているうちに、ユウに自分の全てを明け渡してしまいたいと思うようになった。三好は
「俺は遊がいないと生きていけないんだ」
と言い、あまりにも優しい顔で微笑んだ。三好はユウのことをまるで穢れを知らない天使のようだと話したが、俺にはそのユウという男が得体の知れない悪魔であるようにしか思えなかった。全てをもって生まれたこの男から、全てを吸い取って生きるユウという存在、ユウの何がこの悪い男の優しさを引き出しているのか。俺はそれがたまらなく知りたくなった。
「遊に触れたらまた壊れてしまう」
三好は怯えながらそう言った。それを聞いて俺は悟った。ユウはきっと三好の欲を知らない。三好がユウにぶつけたかった欲をユウは何ひとつ知らないのだと。そして、同時に、俺は三好が燻らせていた欲の捌け口でしかなかったのだと。三好は俺が今まで見たことのない穏やかな顔をしてユウの話をする。三好の普段見せない顔、欲にまみれた三好の顔を知るのは俺だけで、愛に溢れた顔を知るのはきっとそのユウという男だけなのだ。
ユウは三好の優しさすべてを享受し、俺は残った三好の黒い塊だけを明け渡されていたのだ。俺はそのユウという男が、心底羨ましく思った。俺だって、俺だって三好を愛しているのに。
いつか三好からも、欲望以外の何かを差し出してくれるんじゃないかと思っていた。俺が狂った三好の受け皿であり続ければ、三好もいつか俺の慈愛にアテられて、その心に、俺に対する優しさのような何かが芽生えてくれるんじゃないかと思った。けれど、それは的外れな俺の期待でしかなくて、俺が三好に費やしてきた慈愛も、全てユウに奪われていたのだ。
三好はその日、
「俺は、俺が遊に愛してもらうためにお前といるんだ」
と言い残して帰って行った。
なんて利己的で最低で狂悪な男なのだろうか。俺の心はもうボロボロに引きちぎれてしまいそうだった。汗と血と体液が混ざりあい、俺の肌を伝う。鏡を見れば穴だらけの身体。三好が居なくなってしまったら、俺に残されたのはこの醜い身体だけになる。三好を愛してさえいれば、この身体にも意味が宿る。三好を愛してさえいれば。
俺はもう取り返しがつかないほどの傷と欲情を三好に刻まれてしまった。
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