side② - 2

※このページは暴力的かつ性的なシーンが多く含まれます。ご注意ください。




三好と出会ったその日、三好は俺をプレイルームへと連れ込んだ。三好は俺に、服を脱ぎ恥部を晒すように命令した。「ミヨシくんってセックスの時はそういう感じなんやね、意外やわあ」と俺が言うと、


「いいから黙って、言う通りにしてみろ」


と三好は返し、細めた目で俺を見つめた。別人のようなその男の冷たさが心地よくて、俺はベッドの上で自ら丸裸になった。俺は男に抱かれるのははじめてではなかった。けれど、三好ほどの大きなそれを受け入れるのは少々恐ろしかった。俺は、三好のそれを口にくわえながら、自分の後ろを入念に解した。三好のそれは、俺の口の中で膨らみ、三好は顔を歪ませた。俺の「ミヨシくんえっちな顔になっとるねえ」という言葉が三好を煽ってしまったのか、彼は俺の頭を強く掴み、その牙で俺の喉奥を何度も抉った。飛んだ性癖の持ち主め。三好の精液が喉から直に体内に流れ込み、俺は噎せた。それでも三好の熱は収まらず、三好は俺の後孔にその牙を突き立てた。乱暴な揺さぶりで、脳も身体もダメになっていく。犯されている最中は、このまま三好に壊されてしまうなら本望であるとさえ思えた。ぐしゃぐしゃになったベッドでぐったりと倒れ込む俺を背に、三好は、


「男も案外いいもんだな」


と言った。最低なセリフだった。けれど、俺は彼の初めての男になれたのだと嬉しく思った。三好はことが終わると、金をおいて部屋ルームからすぐに出ていった。後処理もピロートークもなかった。


三好は酷い男だった。


それから、三好はバーに足を運び、俺を見つけてはプレイルームへといざなった。三好とのセックスは、苦痛と快楽の往復だった。日に日に、乱暴になっていく。愛撫らしいものはなく、腹は幾度も殴られ、皮膚を齧り、血が滲むと満足そうに笑った。彼の牙は俺の最奥を何度も貫き、俺の内側で果て、その欲のカタチを俺の中に残し続けた。彼の欲望の最たるものは、誰も知るはずない俺だけの特別なものであり、俺が彼から得られる唯一の宝物であった。酷いセックスが終わる頃には、イカれた俺の脳内はこの上ない優越感に囚われた。


三好の沼にとっくに落ちていた俺だったが、1度、彼を拒んでしまったことがあった。その日、三好は虫の居所が悪かったのか、いつもよりも乱暴な言葉で俺を嬲った。俺は彼の機嫌をとろうと、彼の牙に頬を擦り寄せていたその時、俺の頭を掴んでいた右手が振り上げられ、その拳が俺の顔をめがけて振り下ろされた。俺は咄嗟に顔を守った。

「顔だけはやめてや!」俺は顔が商売道具で、これがなければ生きていくことが出来なかった。何がトリガーになったのかはわからない。三好は「傷つけちゃダメだよな......」とぼそぼそ喋り、簡素なピアッサーをカバンから取り出した。俺の頬を鷲掴み、無理やり口を開かせる。そのままピアッサーの隙間に俺の下唇を挟んだ。「まって、いよし、あってよ」俺の涙の抵抗は虚しく、バチン という音と共に激痛が走った。


ボタボタと流れ落ちる血液と同時に射精した俺たちの白濁液でシーツが汚れた。三好の欲望はこんなにも狂っている。悶え泣きわめく俺を見て、三好はまた意地悪く笑っているのだと思った。それなのに、恐るおそる三好を見上げると、彼はどうしてか泣いていた。狂った獣が哀しくて、針が刺さった唇よりも酷く耐え難い痛みが俺の胸を刺した。そんな三好すらも俺は受け入れてあげたいと思った。痛みに耐えながら、俺は彼の首に腕を回し抱きしめる。狂悪の獣に少しでも優しさが芽生え、いつかそれを俺に明け渡してくれる日が来ればいい。ただそれだけを願った。


この唇の下にあるピアス穴は、俺が三好に刻まれた初めての穴だった。

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