星月と崩壊の世界

碧猫

第1話 未来視の里


 今から五年前、私を残して、里のみんなが消えてしまった。私は、消えたみんなを探したけど、見つからなかった。


「人がいたのか。それも、まさか、素質持ちとは」


 消えた里のみんなを探している時、彼と出会った。私の、初恋の人。


「お初にお目にかかる。俺は、ウィン。貴女の名を聞いても良いだろうか?」


「リーミュナです」


「リーミュナ嬢、少し、話をしても良いだろうか?」


「はい」


 緑色の髪を、後ろに纏めて編んでいる。身長がなければ、女の子だと思ってしまう外見。私は、初めて会ったその人を、信じて良い人だと判断した。


「感謝する。それと、この里の者達の事、本当に、残念に思う。リーミュナ嬢は、なんらかの理由で、ここへはいなかったのだろう。里の者達は、魔法の研究に失敗して、姿を消した」


 魔法の研究。それを聞いて仕方がないと思ってしまった。私達種族にとっては、魔法の研究で何か起こる事は仕方がないと割り切る。


 魔法の研究と私達種族は切っても切れないから。


 でも、悲しいと思わないなんてできない。悲しむ心はある。


 私が泣くと、ウィンは、私をそっと抱きしめて、背中をさすってくれた。


「リーミュナ嬢、もし、望むのであれば、リーミュナ嬢の望む暮らしを提供する」


「理由を聞いて良いですか?」


「リーミュナ嬢は、御巫という言葉を聞いた事があるか?リーミュナ嬢には、星の御巫の素質がある。どこからか、知らない声が聞こえた事はないか?」


 何度もある。みんなに聞いても分からない声。その声が何か分からなくて、何度も悩んだ。幻聴と思って、聞かないようにしていた。


「世界の声。詳しい事は不明だが、星の御巫の素質のある者に聞く事ができる声。やはり、正解だった」


 御巫。この時、私は初めて知った。御巫という存在。それが、どれだけ重要なのかも、何も知らなかった。


「リーミュナ嬢、俺の御巫となってはくれないだろうか?」


「それが、運命が導きであれば、喜んで受けます」


 御巫の役割なんて知らないまま、私はその誘いを受けた。

 でも、それで今すぐに何かが変わるなんて事は無かった。


「感謝する。リーミュナ嬢。では、望みの暮らしを教えて貰えないか?」


「えっと、ここで暮らしたいです。今は」


「分かった。では、時々、ここへ来るとしよう」


 その日は、それだけで終わった。


 この世界は、終わりへの道を辿っている。終わりへと続くその道の中で、私は、生まれてきた。


 私は、この世界と運命を共にする。私達種族は、この世界の運命を知っている。私達種族は、未来を視る種族。


 この時、私は初めて、知らなかった未来を視た。いなくなる事は、どこかで知っていた。でも、これは知らなかった。


 私は、その初めてを愛した。彼を愛した。


 これは、私の初恋なんだと思う。


 その日、私はウィンがいなくなった後も、そこへいた。ウィンがいた場所にいた。


      **********


 私、料理が好きなんだ。暇があれば、いろんなものを作ってる。今は、誰も食べてはくれないけれど。昔は、みんなが食べてくれた。美味しいと言ってくれた。


 今日は、シェリチュを作っている。ぐつぐつ煮込んでいる音が好き。


「邪魔をする」


「ウィン?こんにちは。そこに座っていて。今、シェリチュを作っているの。もう少しでできるから、待ってて」


「馳走になって良いのか?」


「ええ。今は、一人だから」


 ウィンが来てくれて、心が弾んだ。こんなにも、恋は素敵なものだったなんて。


「料理が趣味なのか?」


「ええ。そうなの。だから、楽しみに待っていて」


 初めて、外の人に料理を食べてもらう。その相手が、初恋の相手だなんて。もう運命としか思えない。


 私、この時のために、料理を極めていたのかも。


「楽しそうに料理するんだな。見ていて楽しくなってくる」


「今日はウィンがいるからかな。お客さん、ずっといなかったから」


「そうか」


「この前はありがとう。里のみんなの事を教えてくれて」


 私の想いはまだ、自分の中。この想いを出す時は、きっともっと先。


 視る事しかできない未来に退屈していた。でも、ウィンとの未来は、予測不可能。視る事なんてできない。それがなんてワクワクする事なんだろう。


 そのワクワクが、隠し切れていない。


「できたよ」


「では、頂こう」


 私の好きな人は、どんな反応を見せてくれるのかな。私の手作り料理を食べて、どう思ってくれるのかな。


 私、今日は、いつも以上に頑張って作ったから。


「……ん……その……独特だな」


「えっ」


「……ああ……うま、いとは言い切れない。済まない」


 ウィンは本当に優しい人。不味いって言わなかった。


 私的には美味しいと思うんだけど。でも、みんな言うんだ。ここの人の味覚って他と違うって。


 でも、私これしか知らなくて。この味付け以外知らないくて。


「独特で、食べていて楽しい。ここは独特な文化だな」


「ええ。そうみたい。ここにいたみんなが美味しいと食べてくれていたのが、外では不味いなんて」


「そ、そこまでは言っていない」


「……フフ、ウィンは、とても優しい人だね。私、こんなに優しい人、初めて会った」


「そうか?俺は、俺以上に優しい人を知っている」


 ……恋の駆け引きって難しい。こう言えば、何か良い反応を貰えると思った。なのに、そんな反応なんてない。


 何の表情変化もない。


「……済まない。仕事上、優しさとは無縁で。自分に優しさなどないと思っていて」


「そんな事ない!初めて会った時も、今日も、ウィンは優しいよ!」


「ありがとう。リーミュナ嬢」


 どこか寂しげな表情を浮かべている。


 私、もっと知りたいよ。ウィンの事。なんでそんな顔をするのか、知りたい。


「……そういえば、御巫について何も話していなかったな。御巫というのは、星と月。二人で一つだ」


「月ももう見つけているの?」


「ああ。とても前向きで良い男だ。この崩壊へと続く未来を変えようと本気で動いている。素晴らしい心の持ち主だ」


「……」


 青みがかった黒髪の男の子。とても明るく、前向き。


 少しだけ視えた。私の未来。


「リーミュナ嬢、一人で暇ではないか?その、できれば、弟とその友達を預かってくれないか?御巫と黄金蝶の関係を俺より詳しく教えてくれるだろう」


「ええ。ここでいるのは暇だから、そのくらいは」


「感謝する。明日、連れてくる」


 明日もウィンが来てくれる。それが、楽しみ。

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2024年11月26日 18:00

星月と崩壊の世界 碧猫 @koumoriusa

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