第6話 衝撃の密談


「おいおい、早く入ってこいよ」


 ……はっ、しまった固まっていた。

 いや、なんでこいつら僕の部屋にいるんだ。それなりに広い部屋だけど、七人は狭い。


「あの、どうしてここに?」


 とりあえず中に入る。

 何しにきたんだろうか。


「ああ? 賢者に集められたんだよ。まあ、個人的に気になることもあるしなぁ」


 賢者さんが?


「ああ、疲れてるところすまないね。どうしても確認しておきたいことがあって」


 そう言ったあと、何やら呪文を唱えだした。


「防音の結界は張っておいた。リュウくん、周囲に人の気配はないね?」


「ああ、問題ねぇ。それより、リュウくんって……」


「ジィさんも念のため防諜の結界を。できるでしょう?」


「……ああ、もう張っておいたわぃ」


 なにやら物々しい雰囲気だ。

 今から何が始まるというのか。


「え、なんですかこれは?」


「んー、ちょっと繊細な話になるからねぇ。万が一にでも漏洩することは避けたいんだよ」


 賢者さんはそう言いながら、どこかから取り出した杖を振って何かをしている。もう何をしているか理解できないので、成り行きに任せよう。


「さて、とりあえず準備は整った」


 賢者さんがこちらを向いた。

 フードで表情はわからないが、真剣さが伝わってくる。



「結論を言うけど……」


 ごくり、と喉が鳴った。

 何を言われるのか。


 









 ……は?



「正確には、過去の私か」


 なんだ、どういうことだ?

 何を言っているんだこの人は。


「ああ、混乱してしまうよね。一つずつ確認していこう」

 

 そこから、住所、生年月日、両親の名前、高校の名前、好きな人、好きなゲーム、などなどなど。僕しか知り得ない情報が曝け出された。


 いや、もう意味がわからない。


「……はあ、やっぱりか。もうこれで確信したよ」


 いや、待ってくれ。

 全然追いつけてない。


「君は私だ。そして……」


 他の人たちを見回す。

 いやいやいや。



 






 全員が頷いている。

 

 

「どういうこと!?!?!?!?」





――――――

 


「やあ、そろそろ落ち着いたかい?」


 落ち着いただと?

 こちとらここにきて一番の混乱中だ。何を爽やかな声で聞いてきてやがるこの賢者。


「うーん、何を考えているか手に取るようにわかるねぇ。同一人物なだけはある」


「うるさいよ!なに? どういうことなの? 他の人たちなんで受け入れてるの!?」


 ほんとなんなんだこいつら。

 取り乱してるの僕だけじゃないか。


「いやぁ、そりゃおめぇ、ここまで結構時間あったしなぁ。過去の自分の格好くらい覚えてんだろ。その制服も見覚えあるし」


「確かにそうですねぇ!?」


 いかん、あの怖かったリュウの奴も自分だと分かった瞬間なんか怒りが湧いてきた。


「まあ、流石に儂も目を疑ったがのぉ。幻覚の類かと思ったがそうでもなし。こんなことがあるとはのぉ」


「うるせぇジジィ!それになんだその喋り方は!ほんとに僕なのか!?」


 いや、それを言うなら全員そうだ。

 なんでどいつもこいつも顔を隠したり鱗生えてたり老けたりしているのか。


「おいカミぃ!!お前も僕だってのか!? どう生きてたらそうなるんだよ!?」


「……いや、我に言われても」


 神々しさ全開だが、これも僕?? 途端に胡散臭くなってきた。というか、僕っていろんな世界に召喚されてるの?


「まあまあ、落ち着くのである。吾輩も驚いているが、冷静に話をするのである」


「であるであるってなんなんだよ!お前の喋り方が一番変だわ!!」


「……ちょっと、傷つくのであるな」


 しょんぼりしてしまって少し罪悪感が湧いてきた。

 よし、冷静になろう。


 ふーーーーーーーーーー。

 


 

 ヨロイはなんなんだよ。


「お前は喋れ!!」


「……」


 それでもヨロイは喋りません。

 なんなんだこいつ。


「いやぁ、ほんとにヨロイくんは喋らないね。何か事情があるのかな?」


 こくり、とヨロイが頷く。

 

「それだと不便なので、こんな物を用意しましたー」


 ばばーん、とでもいう風にどこからか取り出したのはドッキリ大成功みたいな手持ちのパネル。なんでもいいけど、賢者のキャラ変わってないか?


「これ、持って魔力を込めると文字が浮き出る仕組みになってるから使ってみて?」


 楽しそうだな賢者。

 ちょっと僕も気になるけど。


 ヨロイがパネルを手に取り掲げる。


[こんにちはー]


 周りから拍手が起こる。


[照れるぜー]


 おおー、すごーい。

 ……いや、なんなんだよこの空気。


「よしよし、上手くできたみたいだねぇ」


 和やかな空気になっている。

 なんか、もうどうでも良くなってきたな。別に害があるわけでもないし。全員僕なら味方だろうし。

 



「さて、そろそろ真剣な話をしようか」


 ほんと急だなぁこいつ。

 話の緩急についていけないよ。


「元の世界に戻らないといけないんだけど、今のところ難しそうだねぇ」


「あの姫さんが嘘をついている様子はなかったんじゃがなぁ。まあ、思い込んどる可能性はあるかのぉ」


「まあ、嘘はついてなかったね」


 なんらかの方法で嘘を見破れるのだろうか。

 ただ、召喚されたばかりでは情報も少なく判断できないみたいだ。


「情報が集まってきたら、また考えようか。とりあえず、緊急の課題としてコウくんのことを考えよう」


 コウくん?

 あ、僕のことか。


「くくっ、名乗らないようには伝えたけど、まさか、高校生とはね……ふふっ」


「おい笑うなよ!急に言われても思いつかなかったんだよ!!他の奴らも笑うなぁ!!」


 なんでこんな晒し者にされてるんだ。

 ヨロイも[笑]とか書いてるんじゃないキレそうだ。


「ああ、そういえば名前を言ってはいけない理由を教えてなかったね。この世界の法則がどうなってるかわからないけど、私のいた世界だと呪法や誓約とかで名前が重要になるんだ」


 呪法? 誓約?

 よくわからないが、名前が大切ということか。


「で、コウくんが名前を漏らすとここにいる人たち全滅する可能性があるんだよね。だから、気をつけてね?」


 思ったより大事だった。


「全滅……?」


「うーん、まあ可能性としてね? その辺りはジィさんが詳しそうだけど、どうかな?」


「儂か? ……まあ、やってやれんことはないかのぉ。流石に名前だけではどうにもならんが、重要な因子ではある」

 

 怖すぎるだろジィさん。


「ま、そういうことなんだよね。とりあえず用心して、この世界ではコウ・コウセイとして生きていくように」

 

「……わかったよ」


 なんだかもう疲れた。

 肉体的にも精神的にも。今日だけでいろんなことが起こりすぎだ。


「さて、本題に入ろうか。題して、コウくん育成計画ー」


 周りから拍手が起こる。


 ほんと、なんなんだこいつら。

 いや、僕なんだけどさぁ。たぶん僕もあっちの立場だったら拍手してるけどさぁ。



 どうやら、まだ寝かせてはくれないらしい。



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