第3話 移動は大変


「それでは皆様との絆も深まったところで!移動しましょうか!」


 これで絆が深まったのだろうか。

 マユルワナさんは健気に仕切っているが、こちらにいる七人は静かだ。時折、複数の視線を感じるのが怖いけど。


「移動って、どこに? そもそもここはどこなんだい?」


 フードの人、賢者さんが質問してくれている。もうあの人に丸投げでいい気がする。他の人たちもそんな感じだ。


「ここは、古代遺跡の中ですね!これから向かうのは、人類最後の拠点であるシンクザイツ城です!」


 遺跡の中だったのか。

 まあ、祭壇もあるし、なんだか全体的に古い感じがするから納得はできる。


「さあさあ!それでは行きましょう!」


 マユルワナさんが元気よく歩き出す。

 他の面々も、渋々といった様子で歩き出した。


 僕も動こうかと思っていると、魔法陣を見つめて動かない賢者さんが目に留まる。


「どうかしましたか?」


「うん? ああ、これが気になってね」


 そう言って、魔法陣を指し示す。


「少し調べるから、先に行っておいてくれるかい? すぐに追いつくから」


 こんなよくわからない場所に召喚されても、探究心を失っていないとは。流石は賢者と名乗るだけはある。


「じゃあ、先に行ってますね」


「うん」


 賢者さんはじっと魔法陣を見つめている。

 邪魔になっては悪いので、さっさと行くとしよう。


 小走りで集団に追いつくと、正面に上り階段が見えた。ここは地下だったのか。


「ここからは階段になってます!暗くて見えづらいので、足元にお気をつけください!」


 なんというか、旅先のガイドの人を思い出した。


 そして、動き出して自分が制服姿だったことに気づいた。他の人はファンタジーな服やら防具やらを身につけているので、明らかに浮いている。


「……おい、お前」


 階段を上っていると、ガラの悪いリュウさんが小声で話しかけてきた。怖い。


「え、なんでしょうか……?」


「そんなにビビるな。お前、年はいくつだ?」


 ビビるなと言われても困る。


「えっと、十七です」


「……ふん、なるほどな。ありがとよ」


 それきり、リュウさんは黙って考え込んでしまった。なんだったのだろう。しかし、感謝の言葉を言えるあたり、そんなに悪い人ではないのかもしれない。


 その後は、黙って階段を上る。


 ……


 いや、長い!

 どこまで続くんだこの階段。めちゃくちゃ足が疲れている。マユルワナさんも止まりそうにないし、他の人も平気そうだから何も言い出せない。しかし、そろそろ休みたい。


「おや? もう追いついてしまったか」


 なんとか頑張って階段を上っていると、賢者さんが追いついてきた。……なんか今、浮いてなかったか?


「ん? ああ、これかい? どうやらここでも私の魔法は使えるようでね。安心したよ」


 魔法!!

 すごい、流石は賢者さんだ。


「随分お疲れのようだねぇ。今の君だと辛いだろうから、運んであげようか」


「あ、ありがとうございます」


 なんていい人なんだろう。

 感動してしまった。今なら何を言われても簡単に騙されてしまうぞ。


「おいおい、甘やかしすぎじゃねぇか?」


 リュウさんが余計なことを言っている。

 なんだこいつ。


「うーん、でも必要のない苦労なんてしなくていいと思うんだよね。そう思わないかい?」


「……チッ、好きにしろよ」


 賢者さんにこれからもついていこう。

 僕のことを一番気にかけてくれている。



 そこからの移動は、とても快適だった。



――――――



「さあ、やっと出られましたね!」


 本当にやっと出られた。

 いくらなんでも長すぎだ。


「シンクザイツ城まではもう少し歩きますので、ついてきてください!」


 まだ、歩くのか……。

 遺跡の外は、真っ暗だった。背の高い木があたり一面に生えているので、森の中にあったのだろう。


 静かすぎて、薄気味悪い。

 

「うーん、すまないがここからは歩いてくれるかい? 私も少し歩いた方が良さそうだ」


「あ、はい。ここまでありがとうございました」


 賢者さんのおかげでかなり回復した。

 あと少しなら歩けるはずだ。


「嬢ちゃん、この森はなんじゃ? 生物の気配がほとんどない。静かすぎるじゃろう」


 ジィさんがマユルワナさんに質問している。

 マユルワナさんはどう見ても高貴そうな身分の女性なのだが、嬢ちゃんなんていう呼び方でいいのだろうか。


「ええと、皆様には馴染みないかもしれませんが、ここは聖域と呼ばれる場所でして。害のある魔獣なんかは入り込めないようになっているんです」


 魔獣? そんなものも存在するのか。

 魔法やら魔獣やら当たり前のように出てきているが、なんとも異世界といった感じだ。魔獣には出会いたくないが。


「聖域、のぉ。なんとも歪な環境じゃな」


 ジィさんが険しい顔で呟いている。

 なにか思うところでもあったのだろうか。


「聖域といっても大小様々な形態で各地にあるので、ここが一般的というわけではないですけどね!外界から守られている場所をざっくりと聖域と称してる感じです!」


「……ああ、理解したわぃ。ありがとうな」


「いえいえ!なにか疑問があれば、答えられるものには全て答えますのでご遠慮なく!」


 ほんとにガイドみたいだな。


 その後は、森の中を黙々と歩く。

 こんなところを歩くことには慣れてないので、なかなかにしんどい。だが、賢者さんに頼り切りというのもよくないと思うので、できる限り自力で歩こう。


 やがて、森の雰囲気が変わった。

 聖域を出たのだろうか。

 

 木々の揺れる音や鳥の囀りが聞こえてくる。

 先ほどまでの聖域と呼ばれる場所が異常であったことを実感する。なんというか、この雑音に安心する。


「ふむ、聖域を出たようじゃのぉ」

 

 ジィさんも言っているので間違いない。


「はい、そうですね!聖域を出たので、森の出口もすぐそこです!」


 やっと森を出られるのか。

 無駄に長かった階段よりはマシだが、それでもかなり疲れた。


「……それにしても、皆様がお強いおかげで快適に森を抜けられそうです」


「魔獣のことかい? 我々を遠巻きに見ている生物がいるけど、あれのことかな?」


「え、周りにいるんですか!? たぶんそれが魔獣ですね。この森には魔獣が多く生息しているんですが、皆様を警戒して近寄ってこないみたいです」


 え、この森そんなに危険だったのか。

 なにも考えずについてきているが、とんでもないところに召喚されてしまったのかもしれない。


「さあ、出口はすぐそこですよ!」


 マユルワナさんの声に前方を見てみると、確かに光がさしている。やっと出られるようだ。


 少し歩き、木々が途絶える。

 久々に開けた空間に出た気がするな。


 時刻は、早朝くらいだろうか?

 まだ太陽が昇ってすぐくらいだ。というか、異世界って太陽とかどういう感じなのだろう。月が二つあったりするのだろうか。


 そういえば今更だが、言葉とかどうしてわかるのだろう。まあ、伝わるのでよしとするか。


「あそこに見えるのが、シンクザイツ城ですよ!」

 

 マユルワナさんが指し示す方向を見ると、確かに城が見えた。……いや、遠くないか?


「ここまで来れば、あと少しですね!頑張りましょう!」


 おー!といったふうにまた拳を上げている。

 誰かのってあげてほしい。いや、僕はやらないけど。



 ぞろぞろと再び歩き出す。

 果たして、あの城で何が待ち受けているのだろうか。

 

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