第16話 多様性の影
展示会の成功から数週間が経った。「未来のハーレム計画」は一歩ずつ着実に前進していたが、同時に多様性というテーマが持つ複雑さと、そこに潜む影も浮かび上がり始めていた。
展示会後の反響と違和感
展示会のアンケートには多くの感想が寄せられ、その多くが肯定的なものだった。
「つながりの地図に感動しました。自分も誰かともっと話してみたいと思いました」
「普段考えないテーマに触れるきっかけになりました」
しかし、一部には違和感を抱く声もあった。
「多様性をテーマにしているけど、何か一方的に教えられている感じがした」
「全員が前向きな対話を楽しめるわけではないと思う。それも多様性では?」
この声を読んだ沙也加は、自分たちが見落としていた何かに気づかされた。
メンバー間の議論
次のミーティングでは、アンケートの結果を元に話し合いが行われた。
美奈がアンケートを読み上げる。
「肯定的な意見が多いけど、この『全員が前向きな対話を楽しめるわけではない』っていうコメントは、私たちがこれから考えなきゃいけないことかもしれないね」
ラミーが頷く。
「確かに。僕たちは『違いを楽しむ』っていう理想を掲げてるけど、現実ではその違いが対立や孤立を生むこともある。それをどう受け止めるかが課題だよね」
「でも、それって解決できる問題なのかな?」
拓哉が少し戸惑った表情で言う。「全員が納得する形を作るなんて、無理じゃない?」
「無理でも向き合うことが大事なんじゃない?」
ウィリアムが静かに口を開く。「多様性って言葉には、光と影がある。僕たちはその両方を見つめる必要があるんじゃないかな」
具体的なテーマの選択
議論の末、次のワークショップでは「違いの受け止め方」をテーマにすることが決まった。
「多様性は素晴らしい、楽しい、というだけじゃない。その裏にある葛藤や孤独にも目を向けて、対話を深める場にしたいと思うんだ」
沙也加の提案に、全員が同意した。
ワークショップの内容は以下のように決まった。
1. 自己の違いを知るセッション
• 自分が他者と違うと感じた経験を共有する。
2. 違いから学ぶセッション
• 他者の意見や価値観に触れ、それをどう受け止めるか考える。
3. 違いが生む課題について考える座談会
• 多様性が時に生む摩擦や孤独について自由に話し合う。
ワークショップの準備
メンバーたちはワークショップの準備を進める中で、改めて自分自身の「違い」と向き合う機会を得ていた。
「私、昔は自分が周りと違うことが怖かったんだ。転校生で友達ができなかった時期があって、その時は違いなんて消したいって思ってた」
美奈がぽつりと語る。
「僕も、留学してきた時は孤立してたよ。文化の違いに興味を持ってくれる人もいれば、そうじゃない人もいた。でも、それが現実だよね」
ウィリアムも静かに続けた。
沙也加は二人の言葉を聞きながら、違いに向き合うことの難しさと大切さを再認識していた。
ワークショップ当日
「違いの受け止め方」というテーマのワークショップには、これまで以上に多様な参加者が集まった。学生だけでなく、社会人や主婦、外国籍の人々も含まれていた。
セッション1:自己の違いを知る
参加者たちは小グループに分かれ、「自分が他者と違うと感じた経験」について語り合った。
「私は、女性として働く中で『こうあるべき』という期待が常にあるのが辛かった」
「僕は、小さい頃から内向的で、みんなと同じように騒げない自分が嫌いでした」
語られる言葉の一つ一つに、他の参加者たちが真剣に耳を傾けた。
セッション2:違いから学ぶ
次のセッションでは、他者の意見に対してどう感じたかを共有する時間が設けられた。
「自分と違う価値観を知るのは新鮮でした。でも、やっぱり受け入れるのは簡単じゃないですね」
「違いを知ることは楽しいけど、それが自分を否定されているように感じることもある」
違いを受け止めることの難しさが、参加者たちの言葉から浮かび上がってきた。
セッション3:違いが生む課題について考える座談会
最後の座談会では、多様性が持つ光と影について自由な意見が交わされた。
「多様性を受け入れることは理想だけど、現実では難しいことも多い。それでも、こういう場があることで少しずつ変わっていけるんじゃないかと思いました」
「違いがあるからこそ、対話をする意味があるんだと思う。完璧じゃなくても、一歩ずつ進んでいければいい」
参加者の言葉に、沙也加は未来への希望を感じた。
手帳に記した言葉
その夜、沙也加は手帳にこう書き込んだ。
「多様性には光と影がある。それを受け止めることで、未来のハーレムはより深く、豊かな場所になるはず」
違いを見つめ、受け止め、共に歩む。「未来のハーレム計画」は、また一つの課題を乗り越え、新たな旅路へと進んでいく──。
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