誰も教えてくれない本当のハーレムとは

星咲 紗和(ほしざき さわ)

第1話 ハーレムという言葉

電車の中吊り広告に目をやると、派手なフォントで書かれた言葉が目に飛び込んできた。


「理想のハーレム、あなたも体験してみませんか?」


派手な水着姿の女性たちが微笑む広告を見て、沙也加は思わず目をそらした。

「またこれか……」そう小さく呟き、スマホを取り出して検索バーに打ち込む。


「ハーレム 本当の意味」


検索結果には、「アニメ」「ゲーム」「モテ男」などの関連ワードが並び、本来の意味にたどり着けそうにない。

苛立ちを覚えながら、ふと電車の窓に映る自分の顔を見た。無意識に眉をひそめていた。


沙也加が「ハーレム」という言葉に興味を持ったのは、大学の授業でイスラム文化を学んだときだった。教授が「ハーレムは男性の享楽のための空間ではなく、教育や文化の拠点でもあった」と語ったのを今でも覚えている。


だが現代ではどうだろうか。広告、メディア、エンタメ作品……「ハーレム」は「女性に囲まれる男性の夢」といった具合に歪められた形で使われている。それが不快というわけではない。ただ、本当の意味が埋もれてしまうのがもどかしかった。


その日の夜、沙也加は古びた本屋に立ち寄った。店内の空気は埃っぽく、並べられた本たちはどれも時代を感じさせた。


「ハーレムの本とかありますか?」


小柄な老店主が振り返り、少し驚いた顔をする。「珍しい質問だね。ああ、これなんてどうだい?」と手渡されたのは、一冊の分厚い本だった。タイトルは、「失われたハーレムの記憶」。


「面白そうですね」


沙也加は本を受け取り、少し胸が高鳴るのを感じた。店主の視線を感じながら、そっとページを開くと、最初の章にこんな言葉が書かれていた。


「ハーレムは、自由を奪う空間であると同時に、自由を生む空間でもあった」


この言葉に、沙也加は釘付けになった。


部屋に戻ると、彼女は熱心にページをめくり続けた。オスマン帝国の宮廷、そこでの女性たちの生活、教育、そして権力闘争……これが本当のハーレム?目から鱗が落ちる思いだった。


気づけば深夜の3時。疲労感よりも、知識欲が勝っていた。沙也加は手帳を開き、こう書き記した。


「なぜ私たちは、本当のハーレムを知らないのだろう?」


物語は、この問いから始まる。沙也加の頭には、もう一つの問いが浮かび始めていた。


「もし現代に、本当のハーレムがあったらどうなるのだろう?」


次回、「ハーレム」という言葉の本質に触れる旅が、いよいよ動き出す。

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