第九章 予感
まあやは最初、怖がるような様子でイタルに近附こうとしなかった。
和彫りを顔面に施した形相は凄まじく、もし幼いこどもだったら、すぐに泣き出してしまいそうな強烈さだから、彼女が敬遠したとしても不思議ではない。
しかし兄は気附いていた。
妹の憧憬の眼差しに。
無感覚で、到底、恋愛感情などというものには縁のなさそうだった、蒼白く痩せ過ぎの彼女に、情炎のようなものを感じた。その眼はイタルに近附くすべてのものに嫉みと憎悪の暗鬱な黒い焰を上げた。
「兄ちゃん」
あるとき、まあやは切羽詰まったように言った。
「イタルを止めさせて」
「止めさせる? 何をだ? ライブか? それは、気持ちはわかるが無理だ。そうさ、兄ちゃんにはおまえの気持ちがわかっていたぞ。でも、イタルはああいう男で、それが彼の生命なんだ」
「違うよ。
兄ちゃんにはわかっていない」
「何の話だ?」
「イタルは、イタルはね、死んじゃうかもしれないんだよ」
「何言ってんだ。死ぬって、何だ、唐突に。莫迦なこと言ってるんじゃない。さあ、今日はもう帰るよ」
「ねえ、約束して。今度ライブするときは必ずあたしを呼んで。あたしに声をかけて。絶対あたしには知らせて! 絶対だからね、お願いよ!」
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