ポンコツ勇者は魔剣と知らずに旅に出る~ただの少年が最強と言われているのは魔剣のお陰だった~

田中又雄

第1話 魔剣の勇者

「ばあちゃーん、これ何?」


 納屋の奥にしまってある岩に刺さった剣を見て、俺はばあちゃんに質問する。


「...あーこれかい?これはねー勇者の剣だよ。私たちの祖先の方が使っていた剣でのー、それはそれはすごい勇者だったらしいのじゃが、若くして亡くなって、次代の勇者のためにその剣をこの岩に刺したのじゃ。じゃが、これを抜けたものは今まで1人もいないんじゃ。どれだけ才能があるものでも抜けない、そういう剣なのじゃ」

「ふーん。そうなんだ」


 勇者の剣...か。


 俺も勇者の話はもちろん知っている。

そして、うちがその勇者の家系であることも。


 しかし、勇者というのは時代と共に変化していき、今ではうちは落ちた勇者の家系と呼ばれていた。


 そして、それは俺も例外ではなく、正直魔法も剣術も全く才能はなかった。

それでも毎日努力だけは続けた。

1日も休んだことはない。


 だから、そんな剣を俺が抜けるわけもないのだが、それでもバカな少年はその話を聞いてから納屋にこもって魔剣をずっと眺めるようになった。


 母さんや父さんもそんな俺を見て、心配していたがそれでも俺はやめなかった。

そうして、ある日...本当に抜けないのか試してみることにした。


 剣のつかを握り、力一杯抜こうとすると、それは拍子抜けするほど簡単に抜けた。


 驚きのあまり腰を抜かしていると、剣から湧き出た黒い煙が全身を覆い、そのまま口の中に入り込んで消えた。


「...勇者の剣を引き抜けた...?」と、無邪気にはしゃぎながら俺はばあちゃんたちに報告しに行った。


 それからというものの、俺は勇者の剣を片手に魔族を倒すようになっていった。


 これまでの努力は決して無駄ではなかったと、そう言われているような気がした。


 そうして、村では俺の話はどんどん広がり、勇者再臨と呼ぶ人も少なくはなかった。


 しかし、俺は勇者と呼ぶにはあまり悲運で、不遇で不幸に苛まれることが多かった。

まぁ、これも勇者の勤めと思えば我慢できなくはなかった。


 それから10年ほど経って、15歳になった俺は村から出ることにした。


 もっと多くの魔族、いや魔王を倒すために旅を始めることにしたのだ。


 村の人たちはみんな応援してくれた。

そして、初めて村を出て、隣の大きな国...リスベルク国を訪れたのだ。


 小さい村の英雄として、この大国でも俺の名前だけは知れ渡っていたらしく、やや自慢げに歩いていた時のことだった。


「...お兄さん、もしかして悲運の勇者様?」と、とある青年に声をかけられる。


「え?悲運?あぁ...まぁ多分それは俺のことだ」


 そんな異名でも広まっていたのか。


 すると、俺の剣を見て苦い顔をする青年。


「ん?どうした?聖剣に何かついているか?」

「...聖剣?...すみません、ちょっと教会まで来てもらえますか?」

「...え?」


 そうして、聖職者と思われる凄そうな人が現れると「悲運の勇者様、少しその剣を見せてもらっていいですか?」と言われる。


「...構いませんが」


 じっくり鑑定した後、聖職者は青年に何か耳打ちした。

そして、彼から告げられたのは衝撃の事実だった。


「...あの...これ...聖剣じゃなくて魔剣っすね。魔族の剣です。勇者様が基本的に不遇なのはこのせいですね」

「...魔剣?...魔剣!?」


 そう、俺が手にしたのは聖剣ではなく魔剣だったのだ。


 こうして、悲運の勇者は悲運の魔剣勇者にランクダウンした。

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