第37話 幼馴染みの決意
ペットお披露目配信の翌日、満はいつものように学校へと向かった。
昨日の配信がうまくいったのか、その表情はなかなかににこやかなものだった。
「よう、満」
「おはよう、風斗」
「見たぜ、配信。よく一人でやり切ったよな」
「えへへへ、そうかな」
風斗が褒めていると、満は照れたように頭を擦っている。
「まだ始めて二週間の配信者とは思えないな。才能あるのかもよ、満」
「だといいな。半月もしたら収益化ができるから、少なくともそこまでは一生懸命頑張るよ」
がっつり褒めてくるからもじもじと照れくさく体を捻る満。
しかし、ふと何かを思い出して表情が暗くなる。
「でも、レニちゃんが配信お休みしてたから、ちょっと気になるな」
「ああ、真家レニか。水曜は配信日だもんな。まったくSNSの投稿もないし、気になるといったらそうなるよな」
「うん……」
風斗は腕を組みながら険しい表情で話している。そのせいもあってか、満の表情はかなり深刻だった。
「真家レニがどうかしたの?」
「うわぁ、花宮さん」
急に出てきた香織に、満が椅子から転げそうな勢いで驚いている。
「なによ。そんなに驚かなくてもいいじゃないの」
「いや、急に声をかけられれば普通は驚くだろうよ。で、なんなんだよ花宮」
普段のおとなしそうな印象と違う香織に、満も風斗も驚いている。両手を腰に当てて前に頭を突き出すようにして怒る香織は、体を起こして話を続ける。
「うん、こないだ提案のあった話なんだけど、私、受けてみることにするわ」
「お、アバター配信者になるのか?」
風斗が確認すれば、香織はこくりと頷いていた。
「私も特技はあるけれど、自分の姿で出るのはどうも自信がないの。だから、アバター配信者になれば、世の中に出しやすくなるかなって考えたのよ。真家レニっていうアバター配信者の姿を見て自信が持てたの」
「そうか、それはよかったな。まっ、あの真家レニの変態お絵描き見てればそうも思うよな」
風斗がお祝いをしている横で、満もうんうんと頷いている。
直後、風斗は満に視線を移すと、改めて香織へと質問をぶつける。
「で、アバター配信者になるとして、目標はあるのか?」
「きっかけになった真家レニっていうアバター配信者は超えたいかな。オーディション先の所属の人だと
「またずいぶんとでっかくでたなぁ……」
香織が淡々と語る話に、風斗は呆気に取られたような反応しかできなかった。
100万人なんて言ったら、業界でも相当の数字だからだ。いとこがそういう業界に関わっているせいで、風斗は詳しいがためにこんな反応になるというわけなのである。
「で、他にはいるのか?」
軽く咳払いをして気持ちを落ち着かせると、風斗は追加で質問をする。
香織はというと思ったよりも引き締まった表情で、ほぼすぐに答えを返してきた。
「うん、真家レニって人が推してた光月ルナってアバター配信者。新人なのにすごい再生数だからびっくりしちゃった。だから、あれくらいを狙いたいの」
「ふぇっ?!」
香織から出てきた言葉に、満が変な声で反応している。自分がやっているアバター配信者の名前が突如として出てきたのだから、ついびっくりしてしまったのだ。
「空月くんがなんで反応するの?」
満が光月ルナだと知らない香織は、ちょっと怒ったような表情で満をじっと見ている。
「ご、ごめん。なんでもないよ。あは、あはははは……」
あまりの香織の形相に、とりあえず笑ってごまかす満。
「変な空月くん……」
香織が呟くと同時に、チャイムが鳴ってホームルームが始まる。
「わわっ、それじゃまたね」
香織は慌てて自分の席へと戻っていった。
その姿を見送った満は、机にへにゃっと力が抜けたように突っ伏してしまった。
「驚いたぁ……。まさか僕の名前が出てくるとは思わないじゃないか」
「しょうがないだろう。基本的にひと月伸びあぐねて消えていくような世界だぞ? 光月ルナは今伸びに伸びまくっている個人勢だ。界隈から注目を集めても仕方がないってやつだ」
「うぐぅ……。なんか恥ずかしいな」
思わず机に顔をうずめてしまう満である。
だが、顔をうずめた場所は木の板の上だ。そんな場所で顔をこすりつければどうなるか、想像に易い話だった。
案の定、満はすぐに顔を上げて額をこすっていた。
「あたたた……、額が痛い」
「そりゃそうだろうぜ。っと、担任だ」
担任の教師が入ってきて、朝のホームルームが始まる。満も風斗も背筋を伸ばして、集中してホームルームを聞いているのだった。
真家レニがどうしているのか気になる満だったが、それ以上に香織のことが気になっていた。
まさか、香織までが本格的にアバター配信者を目指そうと考えているとは思わなかったからだ。
(前言っていたことは本気だったんだ……)
満はちらりと香織の方へと視線を向ける。
結局、そのままホームルームが終わるまで、満は香織の姿を見つめていたのだった。
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