第35話 ペットお披露目配信

「おはようございますですわ、みなさま」


『おはよるなー』


『おはよるな~』


 長音の表記に揺れはあるものの、今回もしっかり挨拶が揃っているリスナーたち。

 こうして、今日の満の配信は始まった。


「さて、今日の配信でございますけれど、僕の家についにペットがやって参りましたの。そのお披露目というわけですわね」


『おお、しもべが増えたのか』


『wktk』


『ルナちに似て、さぞかし素晴らしい子たちなんやろな』


 好き勝手に話すリスナーたちである。

 同接人数は一万人を突破しているので、今回の配信の関心の高さが窺える。

 でも、今日は真家レニの配信がないので、その真家レニの推していたルナの配信に人が流れた可能性がある。


(調子に乗っちゃダメだ、調子に乗っちゃダメだ、調子に乗っちゃダメだ。……よし)


 同接数がいつもより多いので、満は舞い上がりすぎないように心の中で何かを呟いた。


「それでは、早速本題へと入りましょう。クロワ、サン、おいでまし」


 満がペットの名前を呼ぶ。

 光月ルナの全身が映るようにと引いた画面に、ペットたちの姿が入り込んでくる。


『うおっ、犬と猫か』


『柴犬と三毛猫だな』


『どっちも黒い翼がついてて、眷属だってわかりやすいな』


『てか、なんだよ、この毛並みの再現度。変態かよ』


『むふー』


『ファッ?!』


『また本人がおるぞ』


 ペットにざわついたと思ったら、リスナーに作った本人が混ざり込んでいてさらにざわめきが大きくなっている。


(世貴兄さん。また見てくれてるんだ)


 コメントを眺めながら、ついつい笑いをこぼしてしまう満である。

 しゃがみ込んでクロワとサンを抱え上げる。ちゃんと物理演算が仕事しているので、二匹とも画面のルナの腕の中でおとなしくしている。


「紹介致しますわ。こちらの柴犬がクロワで、三毛猫がサンですわよ。僕の新しい家族ですので、みなさまも仲良くして頂けると嬉しく思いますわ」


 満はきゅっと抱きしめる。


『あーもう、てえてえ』


『収益化達成したとはいえ、投げ銭機能が解禁されてないのつらたん』


『チャンネル開設後一か月だっけか。まだ10日もあるぞ』


『推しに貢げぬとは、なんということだ』


 ルナがクロワとサンを抱きしめただけでこの反応だ。美少女とペットの破壊力が凄まじいことが実証されてしまったようだ。


『あー、この反応を見ると、絵師に相談して売りに出すのもありかな』


『kwsk』


「ちょっと、僕の配信で商売の話はしないで下さいませんこと?」


『悪い。この話はまた後でしよう』


 満がぴしっと叱ると、そこでこの話は打ち切りとなった。まったく、吸血鬼になり切っているせいか、普段の満とは違って少し気が強くなっているようだ。


「おほん、リスナーの方が何か盛り上がっておりましたけれど、このペットの可愛らしさをこの僕が存分に見せて差し上げますわよ」


『wktk』


「さあ、クロワ、サン。僕についてくるのです」


 満がこう命令して、屋敷の中を歩き始めると、ちゃんとクロワとサンは後ろをついてくる。


『ほえ~、賢いやん』


『これだけのヴァーチャルペットを作るとか、開発者は間違いなく変態だな』


『おう、もっと褒めてくれ』


『wwww』


 リスナーたちのコメントを眺めながら、背景は屋外へと切り替わる。


「それでは、ここでこの子たちの可愛らしさをもっと発信させて頂きますわ」


 満はクロワとサンを眺めながら命令を出す。


「クロワ、サン。飛びなさい」


 そう指示を出すと、二匹の背中の羽がバタバタと羽ばたいて、ルナの目線の位置にまで浮かび上がった。


『おお、飛んでる』


『これを作ったやつってマジで変態じゃあないか』


「クロワ、サン。僕の周りを回りなさい」


 しばらくその位置でとどまっているのを見せると、満は次の指示を出す。クロワとサンは指示に反応して、ルナの顔の少し下で体の周りをくるくると飛び回り始めた。

 これを見ながら、満も世貴の技術の高さに度肝を抜かれたものだ。羽美からデザインを渡されて実質ほぼ丸二日で仕上げたんだから、変態の所業以外の何ものでもなかった。

 十分に動かせたと思ったので、満は再びクロワとサンをきゅっと抱きしめる。そのもふもふを少し堪能すると、顔を上げて正面へと向き直る。


「このペットについてはパパとママと相談させて頂いた上で決定を致しますわ。その際には、また配信を行いますので、今しばらくお待ち下さいませ」


『了解~』


『りょ』


『OK』


『承知した』


 いかにも楽しみにしていそうなコメント並んでいる。クロワとサンはどうやらリスナーたちに受け入れてもらえたようだった。

 この状況を見た満は、ほっとひと安心といった感じで、胸に手を当てていた。


「それでは、本日のところはこれにて配信を終了させて頂きますわ。みなさま、ごきげんよう」


 今日の配信の予定はつつがなく終了したことで、満はリスナーたちへと挨拶をする。


『おつるな~』


『おつるなー』


『ペット続報を待ってるのだ』


 いつもの挨拶に紛れて、ペットに興味津々のコメントが見えている。

 この反応に満足した満は、配信終了をクリックしてこの日の配信を終了させたのだった。

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