第33話 仕事が速い!
音声データを送りつけた日の夜のこと、世貴から返信がある。
メールに気が付いた満は、早速メールを表示させる。
『満くんへ
今朝頼まれた動画ができ上がった。添付してあるから確認してほしい。
ペットは明日には仕上げる。楽しみに待っていてくれ。
P.S.収益化おめでとう。お金のことなら気にしなくていいが、どうしてもっていうのならギフトカードで送ってくれ』
なんともまぁ、今朝送ったデータをすでに動画にしてくれたようだ。いくらなんでも早いものである。
早速動画を確認する満。
最初にいきなり光月ルナのドアップから始まり、思わずびっくりしてしまう満。危うく椅子を倒しそうになる。
にこりと笑ったかと思うと、画面は空中へと切り替わる。
光月ルナの住む屋敷の全体像が移り、その上を自由自在に飛び回る。
一度着地したかと思えば、屋敷の一角にある林の中を飛び抜けていく。
最後にもう一度着地して、少し離れたと思えば笑顔で手を振って、最後に投げキッスである。
動画はこれで終わったのだが、モニタの前では満が悶え苦しんでいた。
それもそうだ。このキャラの中の人は満なのだから。自分がこれをしたのかと思って恥ずかしがっているのだ。
頭を抱える満だったが、ぴたりと動きを止めて真面目な顔で画面を見る。
「依頼は出したんだから、収益化したらちゃんとお返ししなきゃね、うん」
これだけ凝った映像を作ってもらってただ働きはさすがに体裁が悪い。
しかし、収益化申請は来月までできないし、振り込みはそこからさらに二か月後だ。
「あーあ、どんなに早くても年明けちゃう。お礼がお年玉ってどういうことだろう」
大きなため息をつきながら、満は送ってもらった動画を投稿する前に返事を出す。
送信をクリックしてメールを出すと、世貴に作ってもらった動画を自分のチャンネルに投稿した。
投稿が終わるとSNSへと宣伝。
時間的に夜の10時を回っているので、ルナとして活動しても何の問題もない。
『新しい動画を投稿いたしましたので、みなさんぜひ見て下さいませ』
同時に動画URLと『#光月ルナ』『#新人アバ信』のタグも使う。サイト名は長すぎるので省略だ。
投稿するや否や、ポンポンとRPの通知が来る。せっかく寝ようとしたのに通知音がうるさすぎるというものだ。
少なくとも自分が休めそうになくなるので、満は慌ててSNSの通知を切る。ただ、この間も自分の投稿のRPといいねの数が跳ね上がっていくので、なんとも怖くなってしまう満だった。
(うん、おとなしく寝ようっか……)
時計はまだ夜の11時前だ。満はよっぽどのことがないと日付が変わる前に寝てしまうので、これは平常運転である。
ところがどっこい。翌朝目が覚めた満は、さらなる衝撃に見舞われる。
(うん? またメールが着てるな……)
起きた午前5時。
昨日投稿した動画の反応を確認しようとした満がパソコンを立ち上げると、パソコンの通知に新規メールのお知らせが届いていた。
メールを確認すると、また世貴からのメールだったようだ。
『おはよう、満くん。
動画を送った後にペットの最終調整をして、先程完成したので送らせてもらう。添付ファイルに操作方法が載っているから、よく確認してくれ。
不具合があったらすぐに報告してほしい。いつでもすぐに対応するから。
それじゃ、いい配信ライフを送ってくれよ』
どうやら頼んでいたペットの方もでき上がったらしい。
日曜に頼んだので、ほぼ三日間で仕上げてしまったというわけだ。なんて恐ろしい人たちなのだろうか。
ファイルを確認すると、犬と猫の二種類があるようだ。ただ、どちらも普通の犬や猫というわけではなかった。
「うん、黒い羽があるよね?」
そう、どちらも背中には黒い羽を持っていた。吸血鬼の眷属という扱いなのだろう。妙に凝っていて、それでいて絶妙な可愛さを誇っていた。
「羽美姉さん、本当にこだわるなぁ……」
満が演じる光月ルナのデザインも、羽美が魂を込めて描き上げたものだ。
イラストの投稿サイトで羽美の描いたイラストを見ることはできるものの、ルナやこのペットたちも気合いの入り方が一段も二弾も違っていた。
「風斗もだけどさ。なんで僕に対してこうも気合いを入れてくれるんだろう」
満はデザインを見ながら首を捻るばかりである。
これだけの短時間で作った割には、立体も毛並みの質感が半端なかった。今にも動き出しそうな、そんな雰囲気すらも持っている。
「うん、触るのは学校から帰ってからだね」
まだ朝の6時にもなってはいないが、満は今のところはメールの確認だけで留めておいた。下手に触って学校に遅れるなんてなったら、恥ずかしいったらありゃしない。
そんな危険を冒すくらいなら、触れないでおいて後の楽しみにしておく方が何倍もマシだと思ったのだ。
動画の再生数に驚きながらも、メールの返信をした満はパソコンの電源を切る。
学校の支度を終えて朝食を食べると、余裕を持って中学校へと向かったのだった。
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