第19話 混乱の配信
*【真家レニ】沈めるから、援護よろ
銃弾の発射がやまないというのに、素早くチャットが打ち込まれる。何度見てもよく分からない現象だ。
『レニちゃん、なんで撃ちながら打ち込めるん?』
『わけが分からん』
『ブラインドタッチでもこうはいかんぞ』
リスナーたちも驚愕の反応である。
満はアバターの表情を驚きに変えながら、反応する。
「わ、分かりましたわ。ボスはお願いしますわ」
*【真家レニ】りょ
満はとにかく迫りくるゾンビたちを撃ちながら、レニの行動をサポートする。
動画で視聴していた時に比べても、この生々しい映像には思わず悲鳴を上げてくなる。
『がんばれルナち』
『耐えるんだ。レニちゃんならすぐに狼男を沈めてくれる』
リスナーが励ましてくれるので、満はどうにか耐えてレニの援護射撃を行う。
ゲームを始めたばかりでこの高難易度クエストに巻き込まれて、ルナを気遣う優しいリスナーたちのおかげで、満はなんとか頑張っていられるというものだ。
早く終わってくれと心の中で願う満。その願いが通じたのか、変異種狼男はレニの銃撃によってついに倒れたのだった。
*【真家レニ】やったね!倒したよ
*【真家レニ】ごめんね、割り込んできてめちゃくちゃして
*【真家レニ】可愛かったから、ついいじめたくなっちゃった
*【真家レニ】お詫びにそっちの都合のいい時にコラボしないかな
『ファッ?!』
クエスト終了と同時に画面の中からはゾンビが消滅して平和を……と思ったら、まさかレニから爆弾発言をぶち込まれてしまう始末。
「えっえっえっ?!」
満もこの混乱っぷりである。憧れのアバター配信者に乱入されて好き勝手されたものの、まさかのコラボのお誘いである。
心を落ち着けるように何度も深呼吸をする満。ライブ配信だというのに無言が続いてしまい、リスナーから心配されるレベルである。
『ルナち、生きてる?』
『いやぁ、これは失神しててもおかしくないぞ』
『そりゃそうだ。新人の配信にベテランが割り込んできて大暴れしただけでも大変なのに・・・』
『このままじゃ、どっかのラノベみたいに切り忘れ事故を起こすぞ』
リスナーたちが騒めいている。
*【真家レニ】ルナちゃん、ごめんね。荒らしみたいになっちゃったよー。うう、宣伝してお詫びしますぅ!
レニはそうとだけ言い残して、退室していった。
満はしばらく呆けていたが、どうにか我に返る。
「お、驚きましたわ……」
『お、生きてた』
『おかえりなさい』
満が発言をすると、コメント欄が優しい言葉で埋め尽くされていく。本当にいいリスナーばかりで、満は恵まれている。
「まさか、人気配信者の真家レニ様がおいでになるとは思ってもみませんでしたわ」
満は落ち着いてキャラを作って慎重に話している。そして、画像がまだゲーム画面だったので、本来の配信用の画面へと切り替える。
「おほん、いかがでしたでしょうか。皆様はお楽しみ頂けたでしょうか」
『もちろん』
『そりゃ当然』
『誘われてやって来たが、かわいいから応援しる』
リスナーの言葉は温かいものばかりだ。これには始めてよかったなと思う満なのである。思わず泣きそうになってしまう。
「さすがに真家レニ様の訪問は予想外でしたし、コラボのお誘いは驚きました。ですが、僕はまだ配信を始めたばかりでございます。先輩方に甘えすぎるわけには参りませんわ」
『せやな』
『えらいなぁ、ルナちは』
「ところで、ルナちというのはやめて頂けませんかしら。僕は吸血鬼の真祖の血脈、可愛い呼び名など受け入れられませんわ」
『吸われてもいいからこの呼び名は通す』
引っ掛かったのあえて指摘するが、リスナーも引かなかった。
「はあ、好きに及びになって下さいな。さすがに疲れましたわ、本日はこれにて配信を終わらせて頂きます。それでは、よい夜を……」
『おつー』
『乙』
『次も楽しみにしてる』
配信終了をクリックして、満は配信を終える。
さすがに疲労感からか、満は配信終了後は沈み込むように眠ってしまったのだった。
―――
「うわっちゃ、やっちゃった……」
「どうしたんだい」
ヘッドギアを外した少女が、父親と思われる男性から声を掛けられている。
「うん、たまたま見てた新人アバ信の配信がやり込んでるゲームの配信だったから、つい我慢できずに乱入して大暴れしちゃった」
「うん、それはダメだね。ちゃんと謝ったかい?」
「謝ったよ。お詫びもするって伝えておいた」
「そうかい。それじゃ、ちゃんと実際に行動で示すんだよ、いいね?」
「はーい、パパ」
少女が返事をするとパパと呼ばれた男性が部屋を出ていった。
パソコンのモニタの前でたたずむ少女は、光月ルナのチャンネルの画面をじっと見つめている。
(このチャンネルを見たのはたまたまだったけど、不思議な感覚に陥ったもんね。これは、じっくり調べてみるしかないかな……)
真剣な表情でこれまでのルナの動画を見始める少女。
(このアバターってママの話に出てくる人物にそっくり……。これはもっとお近づきになって彼女のことをよく知りたいわ)
少女は動画を見ながらごくりと息を飲んだ。
「とりあえず、言った通りに宣伝しなくっちゃ。配信者として期待できるもん」
少女はカチカチとパソコンを操作して、光月ルナのチャンネルをSNSで広めるのだった。
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