第8話 次のヒントを求めて

「こんばんレニ~」


 ほとほどに動画を作成したところで、満は真家レニの配信を見ている。

 薄い金髪の少女がにこやかに画面の中で動き回っている。

 今日も真家レニの配信の同接は数万を軽く超えている。


(ああ、今日もレニちゃん可愛いなぁ~)


 配信を見ながらそんな事を思っている満である。まったく、真家レニのファンというのが頷けるくらい陶酔していた。

 とはいえ、今回はいつものようにただレニの姿を見ているだけではなかった。初配信を終えたばかりで、次の生配信のためのヒントを探りに来ているのだ。

 アバター配信者になりたての満は、何をしたらいいのか、何を喋ったらいいのか分からないのだ。チャンネルの登録者もまだ一桁、駆け出しの配信者で吹けば飛ぶような状態。登録者が十万人を超えているレニから、少しでもヒントを得ようと必死に画面に食いつく満なのである。

 十万人超というと、アバター配信者の中ではほど遠い存在だ。しかし、今の満からすれば間違いなく真家レニは憧れの対象であり、追いつきたい存在なのである。

 今日の真家レニの配信内容はお絵描きだった。

 にこやかな表情のアバターの顔の下に、画像編集ソフトの窓が表示されている。そこには、流れるような感じで線が引かれ、やがて段々と色がついていく。


「じゃじゃーん、レニちゃんの完成でーす」


 そこに描かれていたのは、間違いなく自身のアバターである真家レニのイラストだった。


『おお、すげぇ』


『おいおい、アタリもなしに描き上げたぞ』


『なんでそんな絵が一時間もかからないんですかね(驚愕)』


『か・き・じ・ゅ・んwww』


 次々と書き込まれていくコメント。

 描き順の指摘の通り、真家レニは自分の姿をとんでもない場所から描いていた。だからこその、このツッコミなのである。


「どうやったら、こんな動きのある絵をそんな風に描けるんだろう」


 ぽちーんと気が付いたらコメントを打ち込んでしまう満。


『たしかに』


『変態的所業だぁ(褒め言葉)』


 表示された満のコメントに反応して、同意コメントが書き込まれていく。


「日々の努力ですよ、もちろんじゃないですか~」


 明るい笑顔で笑うレニ。


『ええ……(困惑)』


『さすがレニちゃん、そこに痺れる、憧れるぅ!』


『わけが分からないよ』


 これまた反応が割れていた。


「今回描いたイラストは、背景を加えた上で『PAICHATペイチャット』に上げさせてもらいますね」


『おお、楽しみだ』


『レニちゃんのイラストで今日も生きていける』


『おい、イキロ(笑)』


 レニがひと言喋れば、その都度数十、数百のコメントがあっという間に書き込まれて流れていく。

 これが人気者なんだなと、満はその目で実感していた。


(僕もいつかこのくらいにはなってみせる!)


 レニの配信を見ながら、満は改めて決意をする。


「さて、お絵描き配信だったので長くなっちゃいましたね。それではみなさん、よい夢を。おつれに~」


『おつれに~』


『おつれに~』


『次も楽しみにしてる~』


 レニが笑顔で手を振る映像を最後に、ぷつりと配信が終了する。

 真家レニの配信を見終えた満は、その満足感からかしばらくぼーっとしていた。


「そっか、自分の特技を活かすかぁ~……」


 満はぽつりと呟く。

 こう呟いた理由は、真家レニのお絵描きを見たからだった。とはいえ、さすがにあの変態的技巧は真似できそうにない。

 満は自分に何ができるのだろうか、それを本気で悩み始めた。


「うーん、風斗に相談しようかな」


 一人で悩んでいても結論が出ないので、そこは素直に友人に相談することにする満だった。が……。


「うん、夜も遅いし明日にしよう。今は作っている動画を完成を目指そうかな」


 満は学校から帰った後から、自分に贈られた『光月ルナ』の設定を再確認していた。

 その中に見つけたのが飛行のモーションだった。

 そう、ルナの種族設定は吸血鬼。空を飛べるのである。

 早速、キャラクターの設定を飛行モードに切り替えると、ルナの背中からこうもりの羽が出現する。


「おお~、なんかかっこいい」


 思わず声に出してしまう満である。

 それと同時に、飛行モードに切り替えると画面に「Tips」の文字が出てきた。

 何かと思ってクリックすると、飛行モード中の操作方法が表示された。飛行モード中ではモーションキャプチャでの操作ができなくなるらしく、そのために特殊な操作がいろいろと設定されているようだった。

 その画面を見た満の口からは、思わず感激のため息が漏れていた。本当にそれくらいに至れり尽くせりといったところである。

 これを作った世貴は相当苦戦しただろう。なにせ、風斗から告げ口された後、羽美がデザインを完成させるまでは3Dモデル化はできないわけなのだから。そこから完成までがたったの十日間である。いくらなんでも早すぎなのである。

 それだけ突貫工事で作られた割に、機能はしっかりとしている。その動きを見た満には、動画を作る意欲がみるみると湧いてきていた。

 結局その後、徹夜をしてまで満は次の動画を完成させてしまったのだった。

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