視線の先

第37話

喫茶rose 屋外テラス席

『野口さん。僕を地獄の淵から救ってくれたのが貴方で良かったです』

(……草津くん。僕は、きみが思うようなそんな優しい人間じゃあないよ?)

 事務所近くの喫茶「rose」相棒である村瀬斗真と一緒に、草津の事を監視していた野口は、別れ際に、草津から言われた言葉を思い出していた。

「一?」

 向かい合う様に座っていた斗真が、コーヒーを飲みながら心配そうに野口に声を掛ける。

「大丈夫? ちょっとぼっとしてただけ」

 斗真の呼びかけに、ちょっとぼっとしていたと嘘をつく。

「そう言えば、お前、泉石渚とかいう餓鬼とは、まだつながっているのか?」

「餓鬼じゃあなくて、渚くん! それに、渚くんは立場こそ違うけど、僕らと同じ探偵だよ!」

「あぁそう? ってか? その……泉石渚だっけ? そいつからも、今日だって、仕事のメールが送られてきたんだろう? 偶々? 俺らが、休みだったからよかったけど」

 昨日まで遅くまで事務所の仕事をしていた野口と村瀬は、家に帰らず、事務所内の仮眠室に泊まり、適当に報告書を作り、所長である城谷純也に提出した。

 そして、二人で少し早めの朝食を食べようと話していたら、渚から、あのメールが届いたのだ。

「それに、そいつの同僚? 友人? どっちでもいいか? その……草津千里って言う男も、もう大丈夫ないんだろう?」

 泉石渚から、2時間前、野口に宛てに送られてきた小説? いやぁ? 暗号を解読して、野口と共に草津千里って男を山奥の小屋まで迎えに行った。

『あぁ!』

『だったら、お前が、そいつに肩入れする必要ないだろう?」

「それはそうなんだけど……」

 確かに、これ以上、草津千里に肩入れする必要はない。

 でも……

「なんか……」

 突然、野口の左耳あたりで、カメラのシャッター音が聞えた。

「いま? なんか? カメラのシャッター音みたいな音しなかったか?」

「いやぁ?」

「おかしいな? 確かに聞こえたんだけどなぁ?」

「空耳じゃあないのか? もしくは、隣に座ってる客の声じゃあないのか?」

 斗真は、視線を、隣の席の目を向ける。

 野口達以外に、外のテラス席には、もう一組、女性2人組が、おしゃべりしながら食事をしていた。

 それはもう、まるで自分達しかいないかのように。

 そんな二人組の女性を目で見ながら斗真は、強引に話題を変える。

「そうかな?」

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