第35話
探偵事務所 「黒薔薇」 所長室
「……茉莉川。きみの気持ちは解った」
「……ありがとうございます」
杏奈は、所長である黒髪廉次(くろかみれんじ)に、上司である柿谷霧矢との不倫を告白し、その責任をもって今週末で退職をしたいと伝えた。
「だか、今、茉莉川さんに退職されると、きみが担当している依頼人に迷惑がかかる。そのことは、きみでも理解できるよねぇ?」
冷たい声で、そして、どこか蔑んで瞳で、杏奈に地獄と言う名の「現実」を突きつける。
杏奈はいま、複数の依頼を同時に担当している。
その中には、女性の探偵である杏奈だからこそ、を直接指名してくれた依頼人を数名含まれている。
探偵事務所「黒薔薇」には、杏奈を含め、3人の探偵が所属している。
「……はい。すみませんでした」
黒髪の声に、杏奈は小さいな声で頷きながら返事を返す。
そんな杏奈に、黒髪は、さらに残酷な言葉を告げる。
「それに、きみがどんなに自らの罪を認めようが、それは、あくまでやった側の考えであって、やられた側? つまり? 草津千里がお前を許さない限り、お前は一生、自分の犯した罪から逃げられない。それぐらいお前は、草津に残酷なことをしたんだぞ!」
「本当にすみませんでした」
黒髪に向かって深々と頭を下げる杏奈。
「……茉莉川? 謝る相手が違うだろう?」
「えっ?」
黒髪の言葉に、下げていた頭を上げ、彼の顔を見る。
「お前が、今謝るべき相手は……入れ!」
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