時に地獄の方が救いの時もある

第34話

「……復讐? 僕が……杏奈に?」

 クロユリを受け取りながら、草津は野口に向かって、少し怯えた表情で問いかける。

「だってそうだろ? 草津くん。きみは、その恋人の裏切りのせいで、未遂だったとはいえ、危うくこの世からいなくなる所だっただよ?」

 怯えた表情をする草津の顎に、自分の右手を添え、自分の方にあえて近づける。

「そっそそそれはそうかもしれませんけど、、最終的に自殺しようと決めたのは、じじじ自分自身の意志ですから」

 確かに、野口さんの言う通り、最初は、杏奈と柿谷上司の裏切りにショックを受け自殺を決めた。

 でも、最終的に、服毒自殺を決めたのは、誰が何と言おうと自分自身の意志で、例え、その原因が杏奈だとしても。

(相変わらず……きみは優しいねぇ? 本当っと、そんな所もあの子(零くん)にそっくりだよ?)

 渚くん! きみは、いい親友あいぼうを持ってねぇ?

 ここにいない、泉石渚に向かって、心の中に優しく微笑むと、掴んでいた草津の顎から自分の右手を離しながら、彼からも距離を取る。

「……野口さん?」

「草津くん。きみが、今、一番失くしたくない物ってなに?」

「えっ?」

 今さっきまで、死を考えて人間になんて質問にしてくるだろうと内心馬鹿馬鹿しいと思いながらも、草津は迷うことなく、はっきりとこう答えた。

「愛です」

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