第7話

「見つけたんだろう? 美緒さんの事?」

「……」

 渚には、その質問に何も返事を返さない。

 だからこそ、昴は、そんな渚に向けてさらに話し続ける。

「渚。僕は、もう一度、きみに美緒さんと幸せになって欲しい」

(……昴)

 背中越しに聴こえてくる昴の嘘偽りのない想いに、彼を今度の戦い(美緒の略奪)に巻き込みたくなくて、あえて引き離そうとしていた渚。

 それでも……

「相手が俺だからまだいいけど、灯さんに、浮気だって怒られても知らないぞ!」

「!」

 そこにいたのは、いつまの優しい笑顔の渚ではなく、自分に、例のあの動画を見せ、岡宮永輝について調べろと自分に命令してきた時の悪魔の渚だった。

「昴。お前の言う通り、美緒は3日前に見つかったよ! それも、僕が働く探偵事務所の近くで」

「本当か? 良かったなぁ? 渚?」

 渚からの報告に、まるで自分のことのように喜ぶ昴。

 これで、ようやく渚は、幸せになれる。

「ありがとう。けど、その前に、1つ解決しておかないといけない事がある」

「解決? 美緒ちゃん見つかっただろう?」

「あぁ!」

「だったら、こんな所で道草食ってないで、美緒のこと迎えに……まさか?」

「ふふっ。お前も、気づいたか?」

「まさか……」

「そのまさかだよ! お前に見せたキス魔で、妻以外の女性と不倫していた岡宮永輝は、あろうことか、俺の恋人古閑美緒の旦那。そう? 俺が、6年間、捜し求めていた古閑美緒はもういないんだよ!」

「……」

 そんなのありかよ!

 昴は、この6年間、渚がどんな思いで、彼女のことを捜し求めていたか、ずっと傍で見てきた。

 だからこそ……

「渚。俺……」

「……昴。俺さぁ? 3日前、美緒と再会した時、本当に嬉しかった。でも、美緒の口から、私、もう結婚しているって言われた時、素直におめでとうって言えなかった。言える訳ないよなぁ? 美緒にとっては、あんなクソ男でも旦那なんだから。それも、愛する」

「……渚」

 この6年間、「古閑美緒を見つけ出す」その事だけを目標に毎日を生きていた渚。

 そんな彼に突きつけられた重すぎる現実。

 その一方で、彼の旦那は、他の女性と不倫をしていた。

「……昴。運命って、残酷だよなぁ? 俺は、今でも、美緒のことが好きなのに、美緒はもう……ゴメン! いまのは忘れくれ?」

 涙は、出ていない。

 出ていないが、涙を拭う素振りを見せる。

 けれど、これは、嘘ではなく「泉石渚」の嘘偽りない本心。

「だったら……略奪すればいい?」

 そうだよ! そんなクソ男の元にいるくらいなら、渚! お前が美緒さんを略奪すればいい。

「ありがとう。昴。お前なら、そう言ってくれると思っていたよ?」

「……お前まさか!」

 昴は、ようやく自分が渚に、嵌められていたことに気がつく。

 だか、気がついた所でもう遅い。

「本当、お前が俺の相棒で良かったよ?」

 そこにいたのは、自分に悪魔の笑みを見せる泉石渚だった。

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