モカが好き。
希結
第1話
「……ねぇ、カフェラテとカフェモカの違いって、何?」
「……は?」
ちょっと変わり者、だけど高身長で家柄もパーフェクト。
……なんて女性社員の間で噂になっていた同期と、12月になって初めて口を聞いたと思ったら……突然そんな謎の質問をされた。
「何回聞いても忘れちゃうんだよね。どっちがどっちだっけってなる。なんかいい覚え方、ない?」
「えーと……ラテとモカの違いだけを覚えておけばいいんじゃない? モカにはチョコレートシロップ?ソースが入ってるらしいよ」
私はそう返しながら休憩室前の自動販売機のラインナップをざっと見て、ホットカフェラテのボタンを押した。
ミルクと砂糖は多めに設定し、30秒くらいで出来上がり。紙コップで出て来るこれは、缶のやつとはまた違った美味しさがあって結構お気に入りなのだ。社員だと漫喫みたいに飲み放題ってところもまた素晴らしい。
「それはどっち?」
「カフェラテ」
ホコホコとした湯気と共に、甘くいい香りがたった。顔を綻ばせながらカフェラテを口を運んでいれば、またしても質問が飛び交う。
「じゃあカプチーノは?」
いや、分かりませんて。
私はコーヒーの違いが分かるタイプの通な人ではない。コーヒーはミルクと砂糖がたっぷり入ってなきゃ飲めないタイプだ!
「……上に泡がもこもこ〜ってしてるやつ。正直言って美味しければいい! 以上!」
異論は認めん、と強い気持ちで横にいるヤツを見上げれば、髪の隙間から整った顔がきょとんとこちらを見下ろしていて。
その突然現れた顔面偏差値の高さに、私は思わず「うっ」とたじろいてしまった。
「もこもこ?」
「……っ、そう。もこもこ」
変人なのに、長い前髪と眼鏡に隠された顔がすごく綺麗なのって……どんなギャップだ。実はこんなにかっこいいなんて、ずるくない?
「ふーん……ねぇ、1口ちょうだい」
私が返事をするよりも先に、彼は紙コップを持っていた私の手を掴んで、そのままカップに口を付けた。
「ちょ……!」
うそ。この人、勝手に間接キスした……!?
「……あま。俺はモカの方が好き。ラテとモカの違い、また忘れそうになったら教えて」
彼は、私が気づかない間に、カフェモカのボタンを押していたらしい。出来上がったカフェモカを片手に、ふらりと去っていった。
「はい……? 私の名前を知ってるかどうかも怪しいのに……?」
いや、絶対知らないだろうな。賭けてもいい。
逆に私は彼の事、無駄に詳しいけどね。
彼の名前は
有名国立大の理系出身の彼は、新卒では異例といれている研究・開発課に配属された。何でも大学の頃から研究熱心な男だったそうで、本人の希望と課から是非にと乞われてだとか。
研究熱心といえば聞こえはいいが、それ以外の事に頓着がないらしく、接待や飲み会なんてもってのほか。そういった会に参加するのは奇跡レベルだし、業務以外の事で自分から会話をするところは見た事がないと噂があるのだ。
「でもエリート……なんだよね?」
彼の名字である国崎というのはここ、国崎メディカルケアの経営者と同じ。つまりは彼の父親が社長って訳なのだ。どうやら彼は三兄弟の末っ子らしく、自由にさせてもらっているらしい。ま、どれも人から聞いた噂話なのだけど。
「……あ! やば。デスクに戻らないとだっ」
社会人1年目で初めて迎える冬。
だいぶ課の仕事にも慣れてきて、こうしてカフェラテを味わえるくらいの、気持ちのゆとりも出来てきた。
にしても、一体何の気まぐれで私に話しかけてきたのだろうか。おかげで国崎くんが隠れイケメンだって事を知ってしまったじゃないか。
「あの前髪と眼鏡は……つまるところ女除けってこと? でも研究中は一体どうしてるんだろ……どう考えても邪魔じゃない?」
勝手に質問を吹っかけてきて、私も一応それに答えてあげたのだから、今度質問し返してやろう。マイペースな同期の彼を困らせてみたくなった私なのだった。
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