第8話 フェンとの絆と若い龍たちとの出会い

 油絵で描かれたような巨大な空島の絵をじっと眺める俺とフェン。

 緑豊かな森が茂っているが一部遺跡のような所もある。まるでラ〇ュタに出てくる空島と一緒であった。


 「主人、思い出したのじゃ。これはアルスと風の古龍がまだ健在だった時にこんな場所でレースがしたいとアルスが言い出したのを風の古龍『スフォルツィア』が古龍の龍魔法で絵画の中に実現したものじゃ」

  

 ちなみにスフォルツィアの名前もアルスがつけたものらしい。イタリア語で風を切るという意味だそうだ。古龍の厳格なイメージとマッチしてるいい名前だ。頭がよさそうなやつだな。


 「主人よ、異世界から来たことをなぜ隠していたのじゃ?」

 俺は言葉を詰まらせる。フェンの重い目が俺の両眼をじっと見ていたからだ。何か言訳を言おうと思ったが、それは不誠実だと思いなおし、ありのままを伝えることにした。


 「俺とフェンはまだ出会ったばかりだからな。信じてもらえないと思ったよ」

 フェンはまだ言うことがあるじゃろう、という目をしていた。仕方ないので洗いざらい言う。


 「あーなんでスキルを見破った時に嘘をついたかってことだろう? 俺には神様から与えられた特別な「スキル」があるなんて言ったら頭のおかしい奴だと思うだろうよ」


 まあそうじゃな、と言ってフェンは遠い目をする。そしてこう言った。その言い訳はアルスにもされたと。


 「やはり主人とアルスは似ているのう。生まれ変わりではないのか?」

 「いや、俺にアルスってやつの記憶はない。これだけは言っておくぞ。俺がアルスの生まれ変わりだろうと魂の欠片を受け継いだものだろうとどうでもいいじゃないか。勝として見られないのは、その、寂しい……」


 フェンは俺のうつむく様子を見てハッとする。俺とアルスを比較する発言が傷つけたのいたのだと今気づいたようだ。


 「す、すまぬ。主人を……いや勝を傷つける気はなかったのじゃ。ただ妾はアルスのことを引きずっておるだけなのじゃ」

 「フェン、今、勝、って……」


 「今までアルスの現身として勝を見ておった。だがそれは失礼じゃ。もうやめる。アルスはもういないが、勝が入ればやっていけるのじゃ」

 「フェン……」

 「ま、勝よ!! そんな泣きそうな顔をするでない。勝を襲ってしまいそうじゃ……」

 最後の言葉は消えゆくような声で聞こえなかったがすごくドキッとした。


 「フェン……」

 「勝よ……」

   

 二人が顔を無意識に近づけてキスをしようとするも……

 「わーはっはっは、若いもんはいいのう!!」


 典型的なエロおやじのスフォルツィアに邪魔される。

 「風の古龍様、そこは陰から見守るのが流儀ですぞ、フォッフォッフォ」

   

 俺とフェンがスフォルツィアとハルを同時に睨むと、スフォルツィアは少し焦った様子で、さあさあ空島の中でもてなすぞ……! と言って石のようになっていた体を実体化させる。ハルは動じることなくひょうひょうとしていた。


 スフォルツィアは嵐のような風を纏うと銀色の鱗にとげとげとした体をなびかせながら暴風を纏う。


 東洋顔の銀色の古龍は少しイメージが湧かなかったが、俺にはかっこよく思えた。そのまま全長10メートルはあろうかという巨体が空島の絵画に突っ込んで、消えていった。


 「主に代わって謝罪しますぞ。勝様にフェン様。あのお方は久しく人間に会っていなくて嬉しがっているのですぞ」


 「なんでスフォルツィアは眠っていたんだ? 元気そうだったが……」

 「それにはわけがあるのですよ……レースに勝ったら話しましょうぞ」

   

 それだけ言ってハルは絵画の中に入っていった。

 「俺たちもいくか!!」

 「そうじゃの!!」


 フェンはそれだけ言って、俺の手を握ってニカっと笑う。

 いつもは月明かりに映える美しさを持つフェンだが、それは太陽の中でさんさんと輝くまぶしい笑顔に見えた。俺は一瞬息をのむ。


 「どうしたのじゃ?」

 「いや、何でもない」


 俺はフェンの手を握りながら、このレースはうまくいく、そんな気がしたんだ。



 絵画の中に足を踏み入れるとグニャリとした感覚がして、一瞬真っ暗な空間が見えたがすぐに空島の風景に戻った。


 俺は目を見張った。いつもより太陽が自分に近く、周りを見渡すと雲海が広がっていた。目の前には何千年前のものかわからない遺跡があり、大いなる未知を感じさせる。


 少し上を見ると豊かな自然が空島に根付いていることもわかり、少年のような心持ちになってきた。草の香りが風に乗り、遠くから鳥のさえずりが聞こえる。空気は澄み渡り、まるで体が軽くなったようだった。


 しばらく俺は空島の様子に目を見張っていたが、フェンが握っていた手を強く握りこうささやいた。


 「勝、来るぞ」

 空の遠くから龍の一団がこちらめがけて飛んでくる。その影響で突風がこちらに押し寄せてきた。俺とフェンは飛ばされないよう、お互いに固く手を握って龍が来るのを待つ。


 赤い鱗を持つ若い龍が低く唸りながら近づいてきた。

 「このフェンリルと弱そうな人間のコンビが騎乗してくるとはな……かぁー、詰まらんレースになりそうだ。風の流れを読めずに落下するのが目に見える」


 ピンクの鱗の若い龍は朗らかに笑っている。

 「えー外から来たんでしょ。少しはやると思うよ。何せ、伝説のアルスの相棒のフェンリルがいるんだから。あーそこの人間も何か特別な力を持ってるね。僕は気になるなあ」


 黒い鱗の若い龍は無言だった。

 「……」


 青い鱗の龍はなんかチャラそうだ。

 「そこの狼耳の君可愛いね! 俺っちとデートしようよ!」


 金色の鱗の若い龍が出てきてこういう。

 「おい!! スフォルツィア様の試練を越えてきた挑戦者だぞ!! 敬意を払え!!」

 何となくだがこいつがまとめ役のようだ。こいつは出来そうな予感がするな。


 スフォルツィアが音もなくいつの間にか近づいていてこう言う。


 「このレースは若い龍たちにとって成長のための儀式でもある。だが、今回は特別に外部からの挑戦者を招き入れたのじゃ。もちろんこれはただの競争ではない。若き龍たちに己の限界を超えさせるためのもの。そして、お主たちに絆の力を示してもらうための試練じゃ」


 「こんなよわっちい奴らが挑戦者? おかしくなっちまうぜ」

 赤い鱗の若い龍が挑発するように言うので、フェンが言い返そうとするが俺が制してこう言う。


 「このレースを制するのは俺たちだぜ。せいぜい侮ってな」

 フェンが俺に一瞥をくれる。その目は『信じておるぞ』と言わんばかりだ。俺はその信頼に応えるため、強く頷いた。


 俺とフェンと若い龍たちが無言でにらみ合う。いい雰囲気になったじゃねえか。


 「わーはっはっは! そうじゃ、若いもんはギラギラせんとな!! 1日後にレースを開始する!!」
































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