前世で、虫やら草やらに16回も転生させられた挙句、しまいには異世界に転生して虫やら草やらに助けられて成り上がりました

七月七日-フヅキナノカ

第1話 美琴とミコ

「ミコ、いつまでやってるの!もう、ほんとに愚図なんだから!」

 居酒屋の女将、マリアは、皿洗いをしていたミコに辛辣しんらつな言葉をぶつけた。そうでなくても吊り目がちの目がますます吊り上がっている。


「まぁ、ミコの仕事は丁寧だから、勘弁してやれよ」

 亭主のジョンがミコをかばった。が、その手は妻の目を盗んでミコの尻を撫でている。

口臭くちくさエロおやじが!)


「次はそこのお客様におしゃくだよ!早くしな」

 ミコは、思わず顔をしかめた。


「何よ、その目は! 拾ってやった恩を忘れたのかい!」

 聞き飽きた言葉だ。毎日一回は聞いている。

(顔デカクソばばあ!)




 ミコは生まれてすぐ親に捨てられて、居酒屋を営む夫婦に拾われた。


 赤ん坊は、ミコと名付けられて、初めは夫婦に可愛がられていた。しかし、ミコが八歳の時、夫婦に赤ん坊が出来ると、二人はてのひらを返すようにミコを虐待し始めた。


 マリアは気の強い女で、八歳のミコを奴隷のように扱った。


 居酒屋の手伝いだけでなく、店や家の掃除は勿論、洗濯、肩揉み、脚揉みまでさせられた。


 ジョンは、八歳になったミコをいやらしい目で見るようになった。すきがあれば、すぐに尻や胸、股に手を伸ばしてくる。


 夫婦の間に出来た子どもは男の子だった。名前はケン。ミコは、ケンの世話もさせられたが、子ども好きのミコはケンをとても可愛がり、ケンもミコに懐いていた。


 それから、八年経った。



 ある夜、ミコは女将に頼まれた買い物をしに外に出た。


 暗い夜道、川に掛かっている橋を渡ろうとして、ミコは足を滑らせた。手すりや欄干などない橋だ。ミコは、真っ逆さまに落ちて、河原の石に頭を打ちつけ命を落とした。



〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜



「ああ、やっと人間になれた」

 美琴は、嬉しさを隠しきれない表情を浮かべて呟く。


 美琴は十六回も生まれ変わりを経験していた。


「最初は、アメリカで蝉として生まれたんだったな」

 美琴は、自分の壮絶な人生を振り返る。


「次はミミズ、余り好きじゃなかったわ」


 その後、アフリカオオコノハズク、フンコロガシ、カモノハシ、チンアナゴ、ショクダイオオコンニャク、シデムシ、アルマジロ、ハリガネムシ、ハシビロコウ、タツノオトシゴ、コウモリ、ハエトリグサ、市松人形、そしてやっとこさ美琴は人間になれた。


「長かったわ〜」


「あたし、自分探しの旅に出るわ。自分のルーツのアメリカに」


 美琴が乗ったアメリカ行きの飛行機は、故障して太平洋に墜落した。乗客乗員、全員の死亡が確認された。


 しかし、美琴の魂は、異世界でちょうど同じ時間に死んだミコの中に転生した。


 目覚めたとき、美琴はミコになっていた。


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