【鑑定その6 虹色の聖なる腕輪 後編】



 ルブラは【虹色のばね】を腕にはめて戻ってきた。

「どうだった?」

「やっぱりただのオモチャだと思うよ。これ」

 そう言うとルブラは、わたしにばねを渡す。

「でもめちゃくちゃ役に立った!」

「えっ、どういうこと?」


 ルブラの言うところによると、虹色のばねをダンジョン探索に持って行ったら、ほかの冒険者にも大いにうけたという。それでダンジョン探索のあいまに、階段からびよーんびよーんと降りさせて遊んでいたそうだ。

 ちなみに彼女らの本来の目的は、迷宮の奥に潜むリッチと呼ばれる強力な魔物の討伐だ。これは不死の魔物と化した強大な魔術師で、知能が高く狡猾だ。熟練した冒険者でも死を覚悟しなければならない、そんな相手である。

 しかしルブラ隊にそんな緊張感は、ない。きゃっきゃっと遊んでいたという。冒険者になるような人は変わり者が多いが、ルブラの仲間はそのあたり、並みの人間の基準はぶち抜いている。


 そうやって階段で遊んでいると、そこに妖精が現れたという。

 冒険者の間では「フェアリー」と呼ばれるタイプの、小さな人間の姿に羽の生えた種族だ。

 ダンジョンにはいろいろな種族が住みついている。その中のひとつが妖精族だ。いろいろな種類やグループがあり、人間に好意的な個体もいれば、非常に危険なものもいる。

 比較的無害ないたずらをしかけるだけのものが多いが、強い悪意のあるものもいる。妖精たちは独自の価値観と判断基準で動くので、きまぐれに冒険者を手助けしたり妨害したりする。


 その妖精族が現れ、警戒したルブラ一行だが、妖精たちは敵意はなく、虹色のばねのおもちゃに強い興味を示しただけだった。

 ばねを渡してみると、妖精たちはやはりそれを階段から落として遊んだり、中に入ったりと盛り上がりまくったという。

 その結果、ルブラ隊は大いに妖精の好意を得ることに成功した。


 妖精たちは、楽しい遊戯の礼として、自分たちの領域をルブラたちに通過させる許可を与えた。これは驚くべきことと言っていい。妖精は自分たちのテリトリーに人間が入ることは許さないのが普通だ。まれに許されることがあるが、ほぼ子供に限られる。

 さらに妖精たちは、今回の彼女の討伐目標であるリッチの弱点となる祭壇の場所を教えてくれたそうだ。

 祭壇を破壊されたリッチは大幅に弱体化し、その何百年と続いた呪われた時間をルブラの一刀で終えたのだった。


「ってわけでさ、やっぱりおもちゃだよ。これ」

 ルブラは話をそう締めくくった。

「うーん……」

 わたしは虹色のばねを両手に乗せ、移動させて遊ぶ。

 悩むわたしをよそに、ばねはしゃーしゃーっと行き来するのみ。

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