【鑑定その5 貞淑の杖 後編】
数日後工房に戻ってきたルブラは言った。
「魔物に効いたー!」
「はあ?」
「効いたよ! この杖!」
わたしは信じられなかった。
効いたというのはもちろんわたしがマッサージ器として使用していた【ぶるぶるする杖】である。人間のマッサージに使えるぐらいだから、そんなもんが魔物に効くはずがないのだが。
「それがね……あ、とりあえずこれ、返すね」
ルブラはその【マッサージ器としか思えないもの】をわたしに返してくれる。
「とりあえずいろんな魔物に当ててみて試したんだけど」
「げっ、なんかやだなあ」
ルブラが言うには、ダンジョン探索の合間合間に、彼女はこれをいろんな魔物に当ててみたという。ダンジョンには敵対的でない魔物もいるので、そういうことも可能だろう。
さらにルブラは、敵対的な魔物にも戦闘中にスキを見て当ててみたという。わたしは呆れながらその話を聞いていた。なんなんだろう。戦闘ってそういうものなのか?
「えーとね」
ルブラはメモ帳を取り出し「実験結果」を見せてくれた。
ルブラの実験結果は以下のようだった。
・スライム(敵対的ではない):無反応、ぷるぷる振動した
・フェアリー(敵対的ではない):おびえて逃げた
・ゴブリン(敵対的ではない):敵対的になった
・トレント(敵対的ではない):無反応
・ゴーレム(敵対的ではない):無反応
・ゴースト(敵対的ではない):敵対的になった
・リザードマン(敵対的ではない):敵対的になった
・クリーピングコイン:つぶれた
・人間の盗賊(敵対的):「あ? 姉ちゃん大丈夫か? ぐはっ」
・人間の戦士(敵対的):「何だそれは? ぐはっ」
・人間の魔法使い(敵対的):「はあ? ぐはっ」
・エルフの弓使い(敵対的):「よくわからんが俺が悪かった!」
・ヴァンパイア(敵対的):襲い掛かってくる
・ウォーキングコープス(敵対的):襲い掛かってくる
・ロッティングコープス(敵対的):襲い掛かってくる
・レッサーデーモン(敵対的):襲い掛かってくる
・スケルトン(敵対的):襲い掛かってくる
・ドラゴン(敵対的):襲い掛かってくる
・アーチデーモン(敵対的):憐れむような目で見て去った
「……あのさあ、それ、効いてるって言わないよ」
わたしはマッサージ器を拭きながら言った。アンデッドやスライムに使わないで欲しい。わたしが使うのに。
「ルブラが馬鹿みたいに強いだけじゃん」
「いや、それがさあ」
ルブラがある魔物にそれを試したところ、効果があったという。
その魔物とは、サキュバス。
ようするに淫魔である。魅惑的な女性の姿で冒険者の精気を吸い取ることで有名な魔物で、ダンジョンの中にはそのサキュバスがたむろしているようなエリアがしばしばあるそうだ。
魔物としては知能も高く、気まぐれな行動もとるのでわりあい危険なのだが、冒険者の中には好んでそういうエリアに行く人もいるらしい。まあよくわからないが、すごいんでしょうねえ。
それで、そういう場所のひとつに行ったルブラちゃん。その杖をぶるぶる震わせながら持って近づいていくと、サキュバスたちは「げっ」「なにあれ」「引くわ」「無理」というようなことを言い、無視するようにしてみな去ったという。
「そんなわけでさ、効いたんだよ!」
「うーん……」
わたしは頭を抱えた。
ルブラが嘘を言っているとも思えないが、よくわからない。とにかくこのマッサージ器には、サキュバスを怯えさせるような何かがあるようだ。
なんというか怯えたというよりは「ドン引き」とか「呆れた」というのが近いのかもしれないが、効いたのは事実らしい。とりあえずこの点はレポートに書いて報告しておこう。
まあ、わたしはマッサージに使うけどね。
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