【鑑定その5 貞淑の杖 前編】

 また正体不明のアイテムが工房に持ち込まれてきた。

 それは、全体としては杖のような形をしている。先の部分にはキノコの傘のような部分があり、本体には電池を入れて錬金術のエネルギーで動かすようになっている。

 そして、動作させると、先端部がぶーんと細かく震え出した。

 この正体不明の【杖?】は、迷宮ではよく見つかるらしい、しかしこれまでどの異世界鑑定士もそれが何か分かっていない、いわくつきのアイテムなのだった。


「やあカタリアちゃん……えっ、ちょ、何してるの?」

「あっ」

 ルブラが入ってきたとき、わたしはその【ぶるぶる震える杖】を脚に押し当てているところだった。杖の使い方で悩んでいるうちに、疲れたところに当てるといい感じに凝りがほぐれることに気づいたのである。

「ちょうどいいところに来た! ルブラ、これ持って」

「え?」

「ちょっと肩のところをお願いしますよ。こうね」


 ルブラはわたしの指図に従い、わたしの肩に【振動の杖】を当てる。びゃあ気持ちいい。わたしは座り仕事が多いから、もう肩や脚や首がこってこって仕方がないのだ。

 おそらく異世界人にも同じような悩みがあって、こうやってぶるぶる疲れをとっていたのだ。

「もうね。わかった。この杖はこう使うモノだよ」

「そうかなあ」

「そうだって。これ、ほかに使い道無いもん」

「この杖、ダンジョンでたまに見かけるけど、使い道とか考えたことなかったなあ。でもさあ。なんか違う気がするんだよな」

「そんなこと言わずにルブラもやってみなって、気持ちいいから」


 ルブラはわたしが勧める通り肩やら尻やらに杖を当ててみる。

「うーん。よくわかんないな」

「えー?」

「肩とかこったことないし。カタリアちゃん運動不足なんだよ」

 日常的にドラゴンとか倒しているルブラの基準で言えばたしかに運動不足だろう。しかし、わたしはこの鑑定には自信がある。なにしろ自分の身体で体感したのだ。これはいいものだ。


「そう使うものじゃないと思うんだけどなあ」

 ルブラは納得がいかなそうだ。

「じゃあ、なんに使うのさ」

「模擬専用のこん棒とかじゃない?」

「それがぶるぶる震える意味ないでしょ」

「もしかしたら、一部の魔物にだけこのブルブルがすごく利くとかじゃない?」

「肩こりという魔物にはよく効くけど」

「よし、ちょっとダンジョン行って試してみる!」

 そう言うとルブラは、その【私はマッサージ器だと思う杖】を持っていってしまった。いいけど、あとで返してほしい。



今回の鑑定品メモ:

【ぶるぶる震える棒】

 これの本来の用途が魔物退治用の特別な道具だろうが、何かの呪術的な道具だろうが、あるいは別の何かだろうが、わたしはこれをマッサージ器として使うと思う。

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