第4話 店じまい

 それは平成になって始めごろの話だ。

 僕の両親は共働きであったため、日曜日は五百円をもらってそれでお昼ご飯を食べに行った。

 五百円で食べられるお店は限られている。

 僕のなかで選択肢は二つであった。

 ひとつは南海岸和田駅近くのスーパーイズミヤ店内にある喫茶店カトレアのナポリタンだ。喫茶店のナポリタンってどうしてあんなに美味いのか。

 もうひとつは宮本町にある今で言う町中華蓬莱閣で長崎ちゃんぽんを食べるかの二択だ。

 特に蓬莱閣の長崎ちゃんぽんはボリュームたっぷりで当時育ち盛りの胃袋を満足させるのに十分であった。しかも味も抜群にうまい。

 カトレアのナポリタンも美味しいのだが、ボリュームという点において蓬莱閣の長崎ちゃんぽんに軍配が上がる。

 スープまで飲み干すと蓬莱閣の店長がようお上がりと誉めてくれた。


 とある日曜日、僕はいつものように自転車をこいで蓬莱閣に向かった。

 もちろんお昼に長崎ちゃんぽんを食べるためだ。

 でも残念ながら、店はシャッターが降りていた。

 どうやら休みのようだ。

 定休日は月曜日のはずななのにおかしいな。

「あら、今日休みなのね」

 目の細い黒髪の女の人がシャッターを見て、そう言った。

 残念そうにため息をついて、店を去っていく。

 そのすぐあと、店のわきから蓬莱閣の店長があらわれた。


「ああっS君やね。すまんな。今日は臨時休業やねん」

 店長はそう言い、僕にすまなさそうな顔をむけた。

 ちなみに蓬莱閣の店長は母親の同級生だ。

「そうなん、じゃあ、おっちゃんまた来るわ」

 休みなら仕方がないな。僕は自転車に乗り、イズミヤにむかった。



 夕方になり、母親が仕事から帰ってきた。

 ファミコンのゲームをしていた僕に母親は慌ただしく声をかける。

「お母さん、これからお通夜にいかなあかんねん。うどん屋さんに肉うどんたのんだから、悪いけどそれ食べといて」

 母親は帰ってきたかと思ったら、喪服に着替えて家を出ていこうとしていた。

「誰か亡くなったん?」

 家を出ようとする母に僕は訪ねる。

「昨日な蓬莱閣の店長が交通事故にあったねん。入院してたけど、今日のお昼ぐらいに亡くなってしもうたねん」

 そう言い、母親は慌ただしく家を出た。

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