便利屋ワトソン

@sorcererISIDA

第1話 迷子

「今日の、『先生に聞きたいのコーナー』もだんだんと終わりに近づいて来ました。

それでは、最後の質問です。

今世紀最大の発明•発見、というのは、なんだとお考えですか?」


「私が思うに、やはり”魔法の発明”ですね。

魔法が使えるようになり、私たちの生活や社会問題。

これらは、大なり小なり変化しています。

これからも変化し続けていくでしょうね。」


「なるほど……。

今日は、先生のお考えや貴重なご意見の数々をお答えいただき、ありがとうございました。

それでは、『先生に聞きたいのコーナー』、

今日は魔法科学の研究者、タマ•ゴリアン先生でした。

明日は、放送作家のオカダ•シオガリさんがいらっしゃってくださいますので、お楽しみに待っていてください。」

  …………

「魔法の普及なんて政府の陰謀だろ。」


 スマホから顔を上げ、小声でも大声でも無く、ごく普通の声量で呟いている彼は、マオ•ランカランという。


 彼は、自身の故郷に別れを告げ、現在、新天地にいる。


 この新天地では、どこもかしこも人の往来が止むことはない。いつでも、どこでも、フレッシュな会話が聞こえる。


 この新天地、もとい街は、ヨークタウンという。


 大国フリーブにある、この国を象徴する大都市の一つでる。


他にも沢山の都市がこの国にはある。

治安が悪くて、事件の絶えない街。

小さくても人々の繋がりの強い街。


 多種多様な種族の人がこの国の至る所で住んでいる。


 その中でもこのヨークタウンはかなりデカい。

数え切れないほどの人が住んでおり、途方もなく広い。

 様々な種族、建物、店、無数の、薄暗い路地裏や人通りの多い道。

想像出来ないほど巨大で、沢山の人が住んでいる。


「どれどれぇ、パンフレットには、『10個の重要都市であるメガシティ。その一つに指定されており、その中でも最も華麗で巨大な都市になっております。』かぁ…すごい都市なんだな、ここって。立ってるだけで田舎とは違うって感じがするから、そりゃそうか。」


 パンフレットから顔を上げ、周りを見回す。

先ほど見た顔はもう無く、絶え間無く変化する、行き交う人々の影。

 彼が経験してきた街とは、全く違う。毎日決まった時間に歩いているお婆さんも、そこら辺を走り回っている元気な子供も、ここには、存在していなかった。


 本当に未知の世界に来たんだ。マオはそう思った。


 だが、心躍ってばかりでは居られない。彼は、今、重大な出来事に直面している。

その出来事とは、


「ところでここは、何処だ?」


 そう、マオは、迷子であった。彼は今年で19歳になる。もう立派な大人と言えるのではないかそんな歳である。


 そんなマオは、田舎者、つまり”かっぺ”と思われるのが恥ずかしいと感じている、意外とピュアな心の持ち主だ。だから、周りの

シティボーイやシティガールに話とか道を聞くのがイヤだった。


 だが、大事なミッションが彼にはあった。

彼がこの街に来ているのは、なにも観光の為では無い。

 仕事の面接の為にこの街を訪れているのだ。

だが道がわからない。


小さいことで悩んでんなよ。

 そう思う人も多いと思う。だが、彼からしたら小さいことではなく、大きいことなのだ。だから悩んでいるのだ。


クヨクヨしていても事態が好転することはない。

 マオは、歩き回ることにした。

 どれだけ悩んでも、やりたくないことはやりたくないし、やる気も出ない。

なら、少しでも動いていた方が、気が柔らぐ。


「地図を見る限り、ここから左に行けば、

セントラルステーションに着くのか。

あそこには、詳細な街の地図があるはず。

よし、ひとまずは、そこを目指そう。」


 独り言が多い。心配を紛らす為だろう。


 地図と歩道を交互に見ながらゆっくりと歩く。ステーションはかなり大きく目立つ。と、パンフレットに書いてあるから、取り敢えずそれっぽい建物が目に入るまで進み続ける。


 足を止める。いや、ステーションに着いた訳では無いのだが、足を止めてしまった。なぜならラーメン店がそこにあったのだ。

 有名な店ではなく、どこにでもありそうな店だったが美味しそうな香りがして、お腹が鳴ってしまった。

 腹が鳴ってしまっては致し方無し。ここは一度、思いっきり啜るしかないと考えた。


店内に入ると


「いらっしゃい!。」


力強い声で来店を歓迎してくれた。


瞬時にマオは、理解した。

(この店…アタリだな)


力強い第一声。

小太り気味の店主(らしい人)。

頭にはタオルを巻き、首元にもタオル。


 美味いラーメン店の絶対条件を満たしている。こんなの、期待せずにはいられない。席に付き、塩ラーメンを頼む。


 ラーメン店ではラーメンだけで勝負する、それがマオのスタイルだ。故に餃子は、いらない。


「すいませーん。塩ラーメンを一つください。普通盛りでお願いします。」


「あいよ!塩ラーメン普通盛りが一つね!」


待っている間、店内をぐるっと眺めた。

 まぁ、言っちゃ悪いが特に何か——有名人のサインや栄誉ある賞の額縁など——があるわけではなく、壁の色は、黒色で長方形の形をしており奥に長く横に短い。

 カウンター席の反対側には、団体用のテーブル席が一、ニ、三、四席ある。


 カウンター席とテーブル席の上にある物は、変わりなく、メニュー表に紙ナプキンと調味料類、あと、爪楊枝があるだけだった。


(無駄な物は、置かない感じなのかな?)

とまあ、こんな風に暇潰しをしていると、マオの前にラーメンが現れた。


「はい、塩ラーメンね。」


 お、美味しそう。口の中でよだれが一気に生成される。

箸を手に取り、「いただきます」を言って麺をすする。

 うん、やっぱり塩味が至高だな、そう思ったマオは、一口、二口と食べ進めていき完食した。腹が減っていたのもあるが、それでも速く食べ終わったのは、この店のラーメンが美味しいからに違いない。


 ああ、そうだった。「ご馳走様でした。」忘れ

るところだった。


“いただきます”に始まり”ご馳走様”で終わる。母が昔よく言っていたな。

 あの頃は、めんどくさかったが、色々なことがあったからか、彼は、今ならこの言葉の意味がわかるような気がした。


代金を支払い、店を出た。


 ポケットから取り出したスマホで時間を確認する。まだ余裕のある時間だ。腹も膨れたところで、もう一度セントラルステーションを目指す。


 セントラルステーションに向け進み続ける。

特に寄りたい店なども無く、寄り道せずに歩き続ける。


 その甲斐あってか、道中特に何も無くステーションに着いた。

通行人をとっ捕まえて話を聞く。


「あ、すいません。この街の地図ってどこにあるんですか?」


 気難しそうな人や強面の人、見るからににカタギじゃない人など、明らかに話し掛けにくいのは避け、優しそうな青年に聞いてみた。するとその青年は、


「地図?地図なんて駅には、ありませんよ。路線図とか時刻表ならありますけど。てか、街の中にもないと思いますよ地図。」


そう言われてしまった。

 地図があると思いここまで来たのに、淡い希望は、打ち砕かれてしまった。

 これからどうしようかと途方に暮れるマオ。

そんなマオに、先ほどの青年が


「どうしたんですか?何処かに行こうとしているんですか?」


と質問する。


「行き先がわからないなら、タクシーの運転手さんに聞けばいいと思いますよ。ほら、あの人達って、色々なところ走ってますから。多分、あなたが探している場所も知っていますよ。」


「そ、そうか。いや、ありがとうございました。それじゃ良い一日を。あはは……」


 地図がないということはわかった。加え、これからどうすれば良いかもわかった。

 名もなき青年よ助言をありがとう。心優しく受け答えしてくれてありがとう。この恩、いつか必ず返すぞ、と、マオは、考えている。だが、マオは、自分の名前を言わなかったし、青年の名前も聞かなかった。一体どうやって恩を返すつもりだろうか。

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