七人の勇者と騙しの館
畝澄ヒナ
七人の勇者と騙しの館
たとえ血の繋がった家族だとしても、知らないことがたくさんある。僕たちがそれを思い知ることになったのは、両親が他界して五年が経ってからだった。
「兄さん、姉さん、朝ごはんができたよ」
僕がそう呼ぶと、六人の兄と姉たちが一斉に食卓につく。僕が最後に座ると、七人一緒に手を合わせて、いただきます、と言う。それが僕たちの一日の始まりだ。家事全般は末っ子の僕がしている。みんなは僕を「七夏」と呼んで、まだ中学二年生の僕を頼ってくれる。これが兄妹の中での僕の役割。
朝食を食べ終わるとそれぞれ準備にかかる。長男の一真兄さんが僕に声をかけてきた。
「なあ、俺のネクタイ知らないか?」
「はい、これでしょ。昨日ソファーに置きっぱなしだったよ」
一真兄さんは会社員だ。高校を卒業してすぐに就職した。毎日僕にネクタイの場所を聞いてくるのはお決まりの行動だ。
「ああ、助かったよ。いつもありがとう」
一真兄さんはそう言って、左腕につけている時計を見ながら慌てて出ていった。僕は洗い物をしようと机の上の食器に手を伸ばした。すると後ろから長女の二風姉さんが声をかけてきた。
「ねえ、これとこれ、どっちの服がいいかなあ」
「今日は暑くなるみたいだから、こっちのワンピースにしたらどうかな」
二風姉さんはオシャレ好きで、アパレルショップでバイトしている。将来の夢は画家で、色々なコンクールに応募している。毎日僕に新しい服を見せて、どちらがいいかの二択クイズを出してくるのにはもう慣れた。
「わかった! いつもありがと!」
二風姉さんはそう言って、お気に入りのひまわりの髪留めをつけて出ていった。僕は食器を流し台に運び終え、蛇口のハンドルに手をかけた。ふと視線を感じ前を見ると、次女の三鈴姉さんが僕をじっと見つめて聞いてきた。
「あの、私の下着がね、一つなくて。もしかしたら姉さんのところに混ざってないかなって思ってるんだけど、何か知らないかな」
「もしかして白いレースのやつ? 後で聞こうと思ってたんだ。洗い物が終わったら部屋に置いておくね」
三鈴姉さんは二風姉さんと違って派手な色は苦手だからすぐにわかる。洗濯も僕がしているから、きっとそれで聞いてきたんだろう。僕が他の家事で手一杯になった時は、たまに晩御飯を作ってくれる優しい姉さん。僕が作るより、調理師の三鈴姉さんが作った方が断然美味しい。毎日僕に申しわけなさそうに話しかけてくるのはいつもどおりの証拠だ。
「うん。いつもありがとね」
三鈴姉さんはそう言って、重たそうにかばんを持って出ていった。僕は洗い物を終え、食器を棚に戻していた。すると遠くから、次男の四音兄さんが声をかけてきた。
「おーい、楽譜知らねえか」
「部屋の机の上にまとめて置いてあるはずだよ」
四音兄さんはバンドマンだ。高校の同級生と一緒にメジャーデビューを目指しているらしい。僕はその夢を応援しているけれど、毎日ギターのピックやら楽譜やらをあちこちにほったらかすのはやめてほしい。
「了解! サンキューな」
四音兄さんはそう言って、ギターの入ったケースを背負って出ていった。僕は食器を棚に戻し終え、三鈴姉さんの下着を部屋に置き、洗濯をしようとそれぞれの部屋に洗濯物を集めに行った。すると途中で三男の五雨兄さんが声をかけてきた。
「なあ、俺の筆箱見てないか?」
「ごめん、ちょっとわからない。昨日部屋に入ったけど、一度も見てないなあ」
五雨兄さんは今年大学受験を控えている。有名な進学校に特待生で入学して、成績は三年間トップだ。毎日僕に、学校で使うものを見てないかどうか聞いてくる。でも僕はそれらを、五雨兄さんの部屋で一度も見かけたことがない。
「わからないならいい、気にするな。いつもごめんな」
五雨兄さんはそう言って、ぼろぼろのスクールバッグを持って出て行った。僕は洗濯機を回している間に、掃除をしていた。すると三女の六実姉さんが声をかけてきた。
「掃除してるとこ悪いんだけど、これから授業だから掃除機だけは避けてくれる?」
「もちろんそのつもりだよ。今日は水曜日だから午前までだよね。午後からは掃除機をかけてもいい?」
六実姉さんは通信制の高校に通っている。授業が午前中しかない水曜日は、午後から食品在庫管理のバイトに出かけている。だから毎週水曜日は午後に掃除機をかけている。
「いいよ、よく覚えてるね。いつもありがとう」
六実姉さんはそう言って部屋に入っていった。僕もそろそろ出ないと、学校に間に合わない。僕は急いで支度をして家を出た。僕は学級委員長だから、僕が学校に行かないと困る人がたくさん出てくる。かなりハードだけど、これはこれで楽しい。
これが僕たちの日常だ。でも今日は学校から帰ってくると、郵便受けに怪しげな赤い封筒が入っているのを見つけた。
「何これ、手紙?」
差出人不明。封筒の宛名のところにはオオカミのマークみたいなのが書いてあるだけだった。
僕は何か嫌な予感がした。だから全員が帰ってくるまで中身は見なかった。僕は晩御飯の時間に、みんなにこの封筒を見せて言った。
「今日郵便受けに入ってたんだけど、誰か心当たりない?」
みんなは口々に、知らない、と答える。誰もわからないみたいだ。僕は封筒を開けて中身を確認した。
「立花家の皆さん、ごきげんよう。あなたたちを私の館で行われるゲームにご招待します。開催日はゴールデンウィークの七日間、もちろん参加は自由です。しかし、ご両親が遺した借金をなくしたいのであれば、参加されたほうがよいかと思います。では、お待ちしております。館の主」
僕たち立花家には両親が遺した借金がある。いつ借りたのか、どこから借りたのかも分からない。特に貧乏というわけでもなかったから、両親が他界するまで借金の存在に気づかなかった。五年経ってもまだ、一億ほど残っている。
封筒の中にはこの招待状と地図が入っていた。
「この場所、まさかあの館なのか」
一真兄さんが地図を見て言った。僕を含めた全員が一真兄さんに視線を向ける。
「知ってるの?」
「ああ、噂でな。この街の近くの森に、『騙しの館』があるって」
騙しの館。聞き慣れない言葉だった。一真兄さん以外、誰もぴんときていないようだ。
「噂では、あの館に行ったやつは誰一人として戻ってきていない」
「なんだよそれ、お化け屋敷か?」
四音兄さんが空気を和ませようとふざけてみたけど、余計に凍りついた。
「そ、そんなとこ行かないほうがいいよ」
「でも、借金なくせるんだからいいんじゃない?」
三鈴姉さんと二風姉さんがいつものように対照的なことを言う。五雨兄さんと六実姉さんはスマホに夢中で、話題にすら入ろうとしない。
「俺も反対だ。こんな怪しいところに行くはずないだろう」
一真兄さんはやっぱり真面目だ。でも僕は、正直行きたいと思っている。
「ええー、なんでよ、いいじゃんか」
「そうだぜ、楽しそうじゃん。俺たちなら大丈夫だろ」
二風姉さんと四音兄さんは意気投合して、一真兄さんに愚痴を言っている。困り顔の一真兄さんを横目に、三鈴姉さんが呟いた。
「七夏に決めてもらうのはどうかな、一番しっかりしてるし」
「ぼ、僕?」
いきなり指名された僕は、うわずった変な声を出してしまった。
「七夏、お前はどっちがいい?」
一真兄さんに詰め寄られて、僕は為す術もなく答えた。
「僕は、行ってもいいんじゃないかなって」
「理由は?」
「理由は……兄さんたちの負担を減らしたい、から……」
どんどん声が小さくなっていく僕を見つめる一真兄さん。怒られると覚悟して目を瞑った時、一真兄さんは僕の頭を優しく撫でた。
「七夏は優しいな。そういうことならみんなで行こうか」
笑顔の一真兄さんに、僕はほっとした。
「え、みんなで行くの?」
途中から話を聞いていた六実姉さんが驚いた様子で言った。五雨兄さんも同様に、一真兄さんのほうを見て固まっている。
「当たり前だろう、俺たちが欠けることは絶対にないんだ。どんな時でもな」
それを聞いた六実姉さんは納得したようだった。五雨兄さんも静かに頷いていた。
「わ、私も、七夏が行きたいなら行くよ」
三鈴姉さんが小さな声で、慌てた様子で言う。それに続いて四音兄さんも話し出す。
「いいじゃん、いいじゃん。久々にみんなで旅行だな」
みんな僕のことを想ってくれている。僕もみんなのことが大好きだ。
「みんな、ありがとう」
僕はいつもみんなが言ってくれることを、笑顔で伝えた。
あっという間にゴールデンウィークがきた。持ち物不要と書いてあったから、僕たちは招待状と地図だけ持って家を出た。一真兄さんを先頭に、地図を見ながら館に辿り着いた。
「ここか、結構でかいな」
一真兄さんの言うとおり、僕たちの家よりはるかに大きい館が、そこにはあった。僕たちは緊張しながら館に入った。
「ようこそ、『騙しの館』へ」
変声機を使ったアナウンスが館内に響いた。僕たちはそこから動けず、黙ってアナウンスを聞くことにした。
「よくお越しくださいました。私はこの館の主、ウルフと申します。ご覧のとおり、オオカミの姿をした者でございます」
目の前のモニターに、オオカミのマスクを被り、丁寧に尻尾までつけた、ウルフと名乗る人物の姿が映し出された。ウルフは丁寧にお辞儀をして、また語り出す。
「早速ゲームを始めたいと思います。ルールはやりながら説明いたしましょう。ではまず、一番と書かれたモニタリング室へお入りください」
僕たちは言われたとおり、一番の部屋に入った。そこは玄関と同じくらいの広さで、大きなモニターが壁に掛けられている。七人全員が座れるソファーがあり、机にはたくさんのお菓子が置いてあった。
「この部屋はこの七日間、皆さんが寝泊まりをする部屋です。食事は決められた時間にお運びします。机の上のお菓子はご自由にお召し上がりください」
アナウンスが流れると同時に、四音兄さんはお菓子に手を伸ばしていた。二風姉さんの口には既に生クリームがついている。一真兄さんはそんな二人にげんこつをくらわせた。
「次に、私が指名した人は隣の、二番と書かれた部屋にお進みください。そうですね、最初は四音さん、あなたにしましょう」
「俺? なんか緊張してきたぜ」
四音兄さんは言われたとおり、二番の部屋に入っていった。すると目の前のモニターに、二番の部屋の様子が映し出された。
「一番の部屋では、二番の部屋で起こっていることや会話などが全て見聞きできるようになっています。一方、二番の部屋では私のアナウンスのみが聞こえます。両者とも話しかけることができないのでご了承ください」
モニターから四音兄さんの独り言が聞こえる。かなりはしゃいでいるようだ。四音兄さんは椅子に座って、足をぱたぱたさせていた。
「では始めましょう。問題。五雨さんは学校でいじめを受けている。はいかいいえでお答えください」
一番の部屋にいる全員が五雨兄さんに視線を向けた。五雨兄さんは一切瞬きをせず、その場で口をつぐんで固まっていた。
「本当なのか?」
一真兄さんが優しく問い詰める。五雨兄さんは何も言わない。するとモニターから声が聞こえてきた。
「そんなのありえねえ、答えはいいえだ。あいつにいじめられる要素なんてないだろ、誰よりも頭がいいんだから」
「いいのですか? 日付が変わるまでは考えてもらっても構いませんよ」
「変えねえよ。早く答え言え」
僕は焦った。だめだ、四音兄さん、五雨兄さんは……
「残念。正解は、はいです。では、ここでお別れですね」
このアナウンスが流れた後、モニターの画面がぷつりと切れ、次に映った時には四音兄さんの姿はなかった。
「四音をどこにやったんだ!」
一真兄さんがモニターに向かって叫ぶ。他のみんなは黙ってそれを見ていた。
「おや、言っていませんでしたね。不正解の場合は、地下労働施設に行っていただきます。もう戻って来れないでしょうけどね」
ウルフの小さな笑い声が部屋に響いた。してやられた、僕は答えを知っていたのに。一真兄さんは拳を震わせ、五雨兄さんは呆然と立ち尽くしていた。
「ではまた明日、朝の八時に」
僕たちが翌日の朝八時まで会話をすることはなかった。
「おはようございます。今日の回答者は五雨さん。二番の部屋にお入りください」
みんな何も喋らなかった。五雨兄さんは黙って部屋に入っていく。
「問題。三鈴さんは援助交際をしていた。はいかいいえでお答えください」
ソファーに座っていた三鈴姉さんはいきなり立ち上がった。顔を真っ赤にしてうつむいている。
「なんで……知ってるの」
その言葉でこの問題の答えはもう出てしまった。でも答えを教えることはできない。
「姉さんはそんなことしない! いいえだ、さっさと正解を言え!」
あんな五雨兄さん、見たことがなかった。五雨兄さんが三鈴姉さんに抱いている感情は、兄妹の愛だけではないのかもしれない。
「残念。答えは、はいです。さようなら」
また一人、いなくなってしまった。一真兄さんは三鈴姉さんの体を激しく揺さぶって問い詰めていた。二風姉さんと六実姉さんは離れたところでそれを見ている。
「どうしてだ、言いなさい!」
「嫌、離してよ」
三鈴姉さんは泣きながらベッドに潜り込んでしまった。もう見てられない。そして翌日の朝八時がきてしまった。
「今日の回答者は三鈴さんです。二番の部屋にお入りください」
赤く腫れた目を擦りながら部屋に入っていく姉さん。応援する者はもう誰もいない。
「問題。六実さんは万引きを繰り返している。はいかいいえでお答えください」
真っ先に反応したのは一真兄さんだった。六実姉さんはその視線に肩をぶるっと震わせた。
「お前、まだやってるのか」
「前ほどにはやってない。信じてよ」
どうやら一真兄さんは過去にしていたということを知っていたようだ。これを三鈴姉さんが知っているかどうか。
「六実はいい子だからそんなことしてないと思います。答えはいいえ。お願いします」
冷静な答えに迷いは見えない。僕はもうモニターなんか見てなかった。
「残念。答えは、はいです。あなたもここでお別れです」
ウルフは淡々と事を進めていく。優しい三鈴姉さんまでいなくなってしまった。次は誰がいなくなる?
「そりゃわかるわけないよ、話してないんだもん」
六実姉さんが呟いた。その顔は青白く、冷めきっていた。一真兄さんもさすがに黙っていた。
翌日の朝八時。いつものアナウンスが流れる。
「今回の回答者は六実さんです。二番の部屋にお入りください」
目の下のくまがはっきり見える。眠れなかったのだろう。六実姉さんはふらふらと部屋に入っていった。
「問題。二風さんはパパ活をしている。はいかいいえでお答えください」
三鈴姉さんのことがあったから、一真兄さんは驚いていなかった。だけど何も思わないわけじゃない。
「二風、説明しなさい」
「説明って、欲しいものがあるからやってるだけじゃん。何が悪いの?」
そうやって開き直った二風姉さんは、ソファーに勢いよく座り込んだ。悪びれる様子もなく、モニターをじっと見つめている。毎日見せてくる新しい服はそういうことだったのかもしれない。
「姉さんは、してないと思う。初めて入った給料で私に服を買ってくれたから。答えはいいえだよ」
二風姉さんは目を見開いた。そして、急に立ち上がって二番の部屋のドアノブに手をかけた。
「開かない! なんでよ!」
ドアを開けようとしていることに気付いたのか、モニターに映っている六実姉さんがドアのほうを見つめている。
「答えを教えられると困りますので、ドアはオートロックがかかるようになっています。どうやっても開かないですよ?」
ウルフが不敵な笑みを浮かべているのが容易に想像できた。スピーカーを睨みつけた二風姉さんは叫んだ。
「この悪魔! 開けなさいよ!」
アナウンスは流れない。二風姉さんは諦めずドアを叩いている。その光景を僕たちは黙って見ていた。
「どうしたの、早く答えを言って」
六実姉さんがウルフに催促をかける。僕はもう覚悟してしまった。
「残念でしたね、答えは、はいです。さようなら」
モニターが切れて、ドアが開いた。慌てて中を覗いた二風姉さんは膝から崩れ落ちた。
もう何も言えない。かけてあげる言葉が見つからない。一真兄さんも、説教なんかする気になれないようだった。
残り三人、後半戦だ。
「今回の回答者は二風さんです。二番の部屋にお入りください」
二風姉さんは覚悟を決めた様子で、堂々と部屋に入っていった。
「問題。一真さんは友人を死に追いやったことがある。はいかいいえでお答えください」
僕は呼吸が浅くなった。そんなの嘘だ。僕は恐る恐る一真兄さんのほうを向いた。
「七夏、違うんだ。信じてくれ」
理由を言わない一真兄さんは初めてだった。でも僕は……
「もちろん、兄さんを信じてるよ」
理由なんてどうでもいい。僕はいつもの笑顔で一真兄さんを見つめた。そしてモニターのほうに目を向ける。
「兄さんがそんなことするはずないわ。答えはいいえよ」
不正解なはずがない。これは正解じゃないといけないんだ。でも一真兄さんの顔は青ざめていた。
「残念。答えは、はいです。悲しいですね」
モニターが切れた。もう僕たちは何も話さない。何も問い詰めない。僕だけが兄さんの味方だ。
翌日の朝八時。次はどっちだ?
「今回の回答者は一真さんです。二番の部屋にお入りください」
僕は何も言わず兄さんを送り出した。
「問題。七夏さんは同性愛者である。はいかいいえでお答えください」
また呼吸が浅くなる。一番知られたくない人に知られてしまった。
「七夏が? あり得ない、七夏は普通の子だ。答えはいいえに決まっている」
目から涙が止まらない。ほら、やっぱり間違えるんだ。
「残念。答えは、はいです。あっけなかったですね」
兄さんがモニターから消えた。大好きな一真兄さんが、僕を拒絶したままいなくなった。
「では、また明日」
ウルフの声が消えたと同時に、僕はベッドに潜り込んだ。
小さい頃から男の子にしか目が向かなかった。おかしいと分かっていても、一真兄さんに対してそういう感情を抱いてしまっていた。兄さんは真面目だからきっと気づかない、むしろ気持ち悪いとすら思うだろう。それがこのゲームで現実になったんだ。
いつの間にか眠っていた。朝の八時、アナウンスが流れる。
「七夏さん、最後ですね。二番の部屋にお入りください」
誰もいない部屋を見渡して、感情を失くしたまま二番の部屋に入る。
「問題。四音さんはギャンブルで借金を増やしてしまった。はいかいいえでお答えください」
「はい、だよ。四音兄さんは僕からもお金を借りてたし、契約書も部屋で見た。だから間違いないよ」
「正解! さすがですね。どうぞ部屋の外へ」
たった五分だった。僕は即答して二番の部屋を出た。
「これまでの問題も全て分かっていたんじゃないですか?」
ウルフの質問に怒りを覚えた。もう手遅れじゃないか。
「うるさい! 兄さんを、みんなを返せよ!」
「それはできないですねえ。さあ、お帰りください。あなた一人で」
黒い服の男達が数人現れ、僕は強引に館を追い出された。館の扉は固く閉ざされ、びくともしない。僕は何の感情もないまま一人で家へと帰った。
夜遅く家に着くと、郵便受けに差出人不明の封筒が入っていた。
「あなた達の借金は無くなりました。今まで借金にあてられた一千万円はお返しいたします。快適な人生をお過ごしください」
僕は手紙をくしゃくしゃにして床に叩きつけた。そして、誰もいない家で感情のまま叫ぶ。
「ふざけるな! もう誰もいない! 優しい三鈴姉さんも、大好きな一真兄さんも、みんなみんないなくなった! 僕の楽しかった日常を返せ!」
外に声が漏れるのも気にしないで散々に泣いた。そして黙々と部屋の片付けに取り掛かり、気がつけば朝日が部屋に差し込んでいた。
「もうこんな時間、朝ごはんの準備しないと」
僕の日常はこれからも変わらない。
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