ひんみんフレンドシップ

双頭アト

第1話

 ガチンッ!


 おでことおでこがぶつかった。

 ぼやけていた視界がパッと一瞬真っ白になり、お互いふらふらと尻もちをつく。


「あぅ……」


 痛みに耐えて上体を起こすと、薄汚れた少女が額をさすりつつこちらを見ていた。


「あ、起きた?」

「……? も、もしかして私、気絶とかしてました?」

「うん。ちょっとね」

「そうですか……。ええっと……今、何時なんでしょう?」

「んー、それよかきみ大丈夫? すっごく顔色悪いよ~。いったいなにがあったの?」


 ――なにがあったの?

 その問いに、アイネは答えようとした。

 霞のかかった意識の中ででのろのろと思考をめぐらせる。


 でも、できなかった。

 思い出せないのだ。


 なにがあった……?

 えーと、なにがあったんだろ。

 そもそも私は誰だっけ?


 ええと……うん、さすがにそれはわかる。“名前くらいは”思い出せる。

 じゃあ、なんでこんなところにいるの? もうあたりは真っ暗なのに……。


 お父さんはどこ?

 お母さんは?

 っていうか、私にお父さんとお母さんはいるの?


 ……いや、いる。

 それはわかる。

 覚えている。

 どんな人なのかはわからないけど、顔もぜんぜん覚えてないけど、たぶん、あってる。根拠はないけど自信はある。


 あれ?

 ん?

 んー?

 でも、それってだいぶおかしくない?

 自分の両親のこと忘れちゃうとか、おかしい……。

 そうだ、おかしい。

 だって毎日会ってるし。

 今日だって、昨日だって、一昨日だって……。

 ん?

 あれ、今日って私、なにしてたっけ?

 昨日って、なんだっけ?


「…………? あ、あの、とりあえず貴方様のお名前を教えてもらってもいいですか?」

「え、あたし? あたしはエリだけど……」


 アイネの頭上に浮かぶ大量のハテナマークは、目の前の少女、エリにもしっかりと伝わったようだった。


「なんか、本格的にヤバそーだね……」


 エリは額をさすりつつ、ぼんやりとそう呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る