Aランク配信部を追放されたVオタの僕、配信の神と出会いS級タレントとともに最強のVTuberグループを作る~みんな僕のこと好きすぎまである~
54話 僕は自分の初出演動画を見る。なんか自分の声、キモくね?
54話 僕は自分の初出演動画を見る。なんか自分の声、キモくね?
僕は男の背中が見えなくなるまで、見送る。
疑ってはいないけど、僕を油断させてから戻ってくる可能性を考慮して、念のため用心しておいた。
多分、なんかの漫画の台詞だろうけど艦長が「警戒を許容してくれる者は信頼できる」って言っていたし
僕はアパートの外階段を上り、共用廊下から、男が去った方を探る。人影はない。本当に去ったようだ。
……はあ、助かった。
「ただい――」
ゴンッ!
「痛ッ!」
玄関ドアを開けようとしたら、何かに当たった。多分、玖瑠美がドアの向こうで待ってくれていた。
「ごめん。いるとは思わなかった。下がって」
「うん……」
僕はそっとドアを開けて、ゆっくり中に入る。
玖瑠美は額を押さえている。靴を履こうとして前屈みになっていたのだろうか。
「大丈夫?」
じっ……。
玖瑠美の頭を凝視すると、ピンク色のハートが五個見えた。
ん?
個数自体はユウと同じなんだけど、なんか、大きいし輝いてる。
必殺技を放つ条件でも満たしたのか?
ダメージを喰らった直後のエフェクトとも思えないし、元気って事だよな?
「怪我、してない?」
「うん。大丈夫……」
なんか、玖瑠美が手を伸ばしてきた。コートを受けとってくれるらしい。
なんのサービスだ?
よく分からないけど、僕は靴を脱ぐと、コートを脱いで渡す。
「お帰りなさい。あなた。ご飯にする? お風呂にする? それとも、和、菓、子?」
「さっき半額のおまんじゅうを買ったけども……! 頭、大丈夫?」
「お約束のやつぅ~。身長が少し伸びたくらいだから平気」
「そんなにコブになってたら大惨事じゃないか。前へ、ならえ」
シュッ!
玖瑠美は狭い廊下で立ち止まると、腰に両手を当てた。いわゆる、背の順で最前列の子がやるやつ……。
「伸びても先頭。たまには腕を伸ばしたい……」
「小ささをウリにしていきなー」
「お兄ちゃん、大丈夫だった?」
「うん。意外と悪い人じゃなかった」
「そうなの?」
「うん。再生回数を稼ぎたくて過激になっているだけで、落ちついて話したら普通の人だった」
「なんじ、心の内に潜む承認欲求に飲み込まれること、なかれ……」
なに言ってんだ、こいつ。ポコラが言ってたんかな。
「なんか名刺もらったし、僕の初出演動画でも見ながら、ご飯にしよっか」
「ん」
ということで、僕達は折りたたみテーブルに並んで座り、撮られたばかりの映像を見ながら、半額弁当とかにクリームコロッケを食べる。
「え? 僕の声、こんなん?」
「うん」
「なんかキモくない?」
「配信者もたまに、自分の動画を見ると声に違和感があるから見ないようにしてるって言うよね」
「あ、言う、言う。こういうことかあ。……いや、やっぱ、スマホで撮っていたからマイクの都合で変になってない?」
「こういう声だよ」
「そっかあ……」
「お兄ちゃん、棒立ちだね。ここはさ――」
玖瑠美は右手の親指をグッと立てる。
「グッドボタンを押して好評価。チャンネル登録お願いします!」
ぺこり。
玖瑠美は頭を下げた。そして頭を上げると、両手を小さく左右に振る。
「こう」
「あー。うん。確かにクリームコロッケ。僕は動きがないから、見ていて面白くないね。そういう意味だと、タロちゃんさんはやっぱ凄いな。ほら、ここ。僕がいきなりチャンネル登録を促した直後に、タロちゃんさんは自らもノッてきて、肩を突きだして親指で顎先を指すような決めポーズをとっている。あの時は苦し紛れで僕に合わせてきたと思ったけど、違う。動画を盛り上げるため意図的に、してやられた演技をしている」
「あ。そっか。画面がタロちゃんに切り替わってるし、これ、咄嗟だけど計算してやったんだ。驚いた顔を、わざわざ映してる」
「うん。カメラは定期的にタロちゃんさんを映しているけど、僕、ずっとカメラを向けられてると思ってた。あー。ここ、僕が虚無ったとき、タロちゃんは自分にカメラを向けてから「その顔、やめろよ」って言ってる!」
「お兄ちゃんを弄っているけど、ちゃんと自分の変顔も見せてるんだね」
「褒めたくはないけど、上手いな。勉強になる……」
「……あれ? 街灯で逆光にならないようにしてない?」
「え? そうなの? マジかぁ……」
言われてみると、夜中にしては綺麗に撮れている。
「VTuberと違って、実写の人はこういうところも気をつけているのか……。しかも、これ、打ち合わせなしの生配信なのに、普通に見てて楽しい。凄え……」
そういえば以前、先輩が「動画はあとから編集すればいいけど、編集が最小限になるように演技することも大事だよ。もちろん、台本の時点から編集を意識する」って言ってたな。YaaTuberの人も、配信開始前の時点で編集のことも考えているんだろうなあ。
突られたときは怖かったし、ちょっと不愉快に思ったけど、終わってみるとけっこう楽しかったし、ためになったな。
まあ、僕のアカウントを特定されてもいやだし、チャンネル登録はしないけどね。
さて、上山誠一郎初出演配信の視聴会は終了だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます