53話 タロちゃんと和解。意外と話の分かるやつだったから、ちょっと互いにリスペクト

「お。どうした? お? なんだよ、急にその顔」


 その顔、言われても、自分でどうなってるか分からんから。


 あ。そうだ。幽体離脱~。


 僕は一時停止で意識を体の外に出し、自分の顔を確かめてみた。


 うわ……。虚無ってる……。なんだろう。自分の顔なのに、まるで、古代の頭蓋骨を復元した顔みたいに、感情がなくて不気味だ。


 虚無が終わり、僕は肉体に戻った。


「たく、つまんねえやつだな。お前のせいで配信が盛り上がらないんだけど? チャンネル登録者が増えないんだけど?」


「えっと。それはすみません……。あ。本日は視聴――」


 エモート『ありがとう』。


「ありがとうございました!」


 僕は笑顔で頭をペコリと下げる。


 このままノリで押し切って、配信を終わらせる流れにしてやろう。


 僕は自力の笑顔を続ける。


「感想はコメントに。面白かった方は、グッドボタンを押して好評価。チャンネル登録お願いします!」


「お、おう。チャンネル登録お願いします!」


「それでは次回、またお会いしましょう!」


「ばいタロ~。って、人の配信、終わらせようとすんなよ。って、なに、お前、そう言うノリなの?」


 エモート『虚無』。


「だ、だから、その顔、やめろよ」


 エモート『虚無』。


「お、おい……」


 エモート『虚無』。


「くそっ! とんでもねえやつに突しちまった! じゃあ、配信、いったん終了します! 続きが気になる方は、チャンネル登録お願いします! ばいタロ~」


 よし。迷惑YaaTuberが根負けして配信を終えたぞ。


 男はスマホをしまうと、はあ……と大きな溜め息を吐いた。


「いや、まじでお前、なんなの?」


「あ、はい……。本当に、ただ無実の罪で晒されて炎上しているだけの、VTuberオタクです」


「え? そうなの? マジで?」


「はい……。先生にも確認して、部費が盗まれていないことはちゃんと確認してもらっています」


「お前、それを配信中にもっと強く言えよ。つっても、視聴者一〇〇人しかいねえけど……」


「え。生配信の視聴者で一〇〇人って凄くないですか?」


「え? そう?」


「そうですよ。内容的に、告知していない生配信ですよね? それで一〇〇人集まるってことはチャンネル登録者が数万人でしょうし、YaaTuber全体でも上位数パーセントの人気配信者じゃないですか」


「そ、そうかな。いや、そうなんだよ。知り合いに言ってもさ、同接一〇〇人はしょぼいって言われるしさー。ビカピンみたいなことしたら、もっと視聴者増えるよって言われるしさー」


「僕も、クビになる前は配信部にいたので、そういうの分かります」


「え? クビって何?」


「なんなんでしょうね……。僕がクビになったあと炎上していたから本当に配信部の件、関係ないんですよ」


「お前さー。それを配信中に言えよ。今から撮り直すか?」


「ありがとうございます。でも、炎上したときに本人から反論すると、もっと炎上しますし」


「そっか……。そうだよな。なんていうか、悪かったな。いや、俺の経験的にさ、ぱじめちゃんが自分の失言で炎上した記事を流すために、お前を炎上させている感があるんだよな」


「そうなんですよ!」


 と、僕はつい声を大きくしてしまう。


 予想外のところで理解者が現れたような気がして、ついテンションが上がってしまったのだ。


「ぱじめちゃんの失言は目撃者が一〇〇人はいるはずなのに、なんの証拠もない僕の窃盗の方が大きく炎上しているの、不自然なんですよね」


「おう。……なんていうか俺が言うのも変だけど、俺みたいなやつが増えてくるかもしれないから教えておくと、お前の対応、一〇〇点だったぞ。めっちゃ、やりにくかった。怒らせて面白い絵を撮りたかったけど、ぜんぜん上手くいかなかった」


「あ、はい」


 エモート『虚無』。


「それな! マジで怖えよ。困ったときは、それで逃げろ。俺等は録れ高つぶされるのが、一番困るから。編集点を与えないように、ずっとその顔してろ」


「はい。助言、ありがとうございます」


「ほれ」


 男が何か小さな紙を出してきた。名刺だ。


「真相を語ります的な配信をしたくなったら連絡くれよ。絶対に俺を呼べよ」


「あ。どうも。ありがとうございます」


「おう。じゃあな。また来るかもしれないから、そんときはよろしくな」


 エモート『虚無』。


「だから、それえっ! なんなん、お前! すげえな! そのメンタル、逆に尊敬する!」


 あっさりと男は去っていった。意外とまともな人だったな……。

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