51話 げえっ。家に迷惑系YaaTuberが来た!
アパートの外階段を降りると、僕は菅井さんの住所を知らないから、二人の後方からついていくことにした。安定のストーカーポジションだ。
二人は同じ通学コートを着ているから、後ろ姿がそっくり。
菅井さんが通学リュックを背負っていなかったら、区別つかないかもしれないな。
あ、いや、問題ない。
じっと見てたら、菅井さんの頭上にピンクのハートが出てきた。3つだ。玖瑠美は5つでキラキラしているから、頭上を見れば簡単に見分けがつく。
お互いのポケットに手を突っこんで、仲良しだなあ。
あの間を通り抜けてからかったら怒るかな、なんてことを考えながら僕は二人についていく。
女子二人をつけ回しているみたいで、なんか居心地悪いな。何か、周囲に知り合いですアピールできるような話題ないかな……。
あ。そうだ。僕がアルバイトしているコンビニに車が突っこんだ話があった。
「あ。そうだ。お兄ちゃんがアルバイトしているコンビニに、車が突っこんだんだよ」
「え? ホント?」
「ホント、ホント。写真あるよ」
「わー。見たい、見たい」
「盛り上がっているところ悪いけど、兄の貧弱なトークデッキから貴重なレアカードを取らないでくれ……。多分、人生で一枚っきりの激レアだぞ。そのカード盗られるの、二度目だぞ……」
とまあ、僕が会話に加わるのはこの辺りまでで、あとはJC二人が、ポコラがどれだけ(良い意味で)ヤバいか盛り上がっているのを、ストーカーポジションで聞きつつ、菅井さんを家に送り届けた。
清楚で愉快なポコラはマジで若い女子から人気なんだよなあ。凄い。
今度、艦長に「JCがポコラの話題で盛り上がっているのを見ました」みたいに、報告しようかなあ。艦長のファン層はおっさんが多いから、悔しがるだろうなあ。
僕達はスーパーに寄り、半額弁当や食料品を買い、家に戻る。今日のオカズは、かにクリームコロッケだ。明らかにバニーガールの園の影響を受けている。
「菅井さん、いい子だね」
「うん。私、何も言ってないのに、今日、なんか察して一緒に帰ってくれた」
「大事にしろよ」
「うん」
「SNSの件だけど、先生に相談したら、対応してくれるって」
「良かった……。すぐに鎮火するといいね」
「うん。まあ、もともと高校の配信部なんだし、そんなに大して炎上しないと思うけどね」
玖瑠美がスマホを弄りだしたから僕は歩く速度を落とし、周囲に気を配る。
両手が買い物袋で塞がっているため、万が一の時に対応が遅れてしまうから、注意は怠れない。
「家まで待てよ。危ないし、寒くて指が痛くなるぞ」
「んー。……あ。公式アカに、謝罪文が出てる」
「マジで?」
「うん」
玖瑠美が外灯の下に立ち止まって、白地に黒い小さな文字がびっちり書かれている謝罪文を読もうとする。
「寒いから帰るぞー」
「部費が盗まれた事実はないって書いてあったよ」
「お。読むの速い」
僕達は再び歩きだす。
「うん。お兄ちゃんに教わったように、長文読解は最後の数行を先に読んだから」
「そっか」
……竹田先生よ。成し遂げたか!
嬉しさのあまり、つい弟子を見守る師匠目線になってしまった。
竹田先生は配信部のXitterアカウントのパスワードを知らないはずだ。だから、おそらく配信部員に圧をかけて、声明を発表させたんだ。
ありがとう、先生。
声明が拡散されるまで時間はかかるだろうけど、あとは世間が僕のことを忘れるまで耐えるだけだ。
僕達は足取り軽くアパートに着いた。
事態が好転し、心も軽くなってきた僕は、アパートの階段を跳ねるように上がった。
「ん?」
死角になっていて階段からは見えなかったけど、僕達の部屋の前に誰かいる?
郵便受けを覗いていたらしき男が立ちあがり、僕達の方へ近づきながら、手にしていたスマホを向けてくる。
「玖瑠美。下がって」
嫌な予感がした僕は、玖瑠美の前に立ち背後に庇う。
目の前に迫ってくるのは、四〇歳くらいの、小太りの男だ。子供のような笑顔を浮かべている。
「はい! どうも! タロちゃんで~す! 配信部の部費二〇万円を盗んだ上山誠一郎君と、初対面! 君、ネットで炎上していること、気づいてます? こんな夜遅くまで恋人とデートですか?」
めっ、迷惑系YaaTuberだ!
このノリ、間違いない。
配信のネタに餓えている迷惑系YaaTuberが自宅に突ってきた!
どうすればいいんだ。教室にテロリストが乱入してくるシーンを妄想するような、平均的男子高校生の僕だけど、迷惑系配信者に突られるシチュエーションは想像したことないぞ。
いや。落ち着け。
僕は今まで、数々の炎上案件を見てきた。見たくもないけど、様々なSNSで定期的に誰かが燃えるから、見てきた。
落ちついて対処するんだ……!
下手なことをすれば、火に油を注ぐことになる。
冷静になれ。
僕の背後には妹がいる。巻きこむわけにはいかない。護るんだ。
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