14話 アイテムボックスが一瞬で埋まるクソ仕様だった

 さて。他のアイテムもインベントリに格納してみたいな。


「簡単に手に入る序盤の定番アイテムといえば、土だよな」


「そうなのじゃ?」


「うん。整地すると大量に手に入るから、気づいたらインベントリを埋め尽くしているんだよ」


 僕はしゃがみ、足下の落ち葉と草を除けて、指先で土をつまんでみる。


 土が消え……ない。指先に残ったままだ。


 手でブロック状に掘る必要があるのか?


 ユウに聞けばすぐ分かるんだけど、自分で調べるのが楽しいから、試行錯誤してみるか。


 僕は拾った棒で地面を削ったり、手をお椀にして砂をかき集めたりする。


 さて、泥だんごを作れるくらいの土は集めたけど、消えないな。インベントリに入らない?


 ここは、アイテムは手に入るけど、地形を構成する自然物は消滅しない系の世界か?


 僕は瞼を閉じて、アイテム一覧を見たい、と念じてみる。



 レッドベリー:2

 砂粒:99

 砂粒:99

 砂粒:99

 砂粒:99

 砂粒:99

 砂粒:99

 砂粒:99

 砂粒:99

 砂粒:99



「砂粒ッ?! なんでだよ! ユウ、ちょっとこれ! 僕が見ているの共有できる?」


「のじゃー?」


「インベントリが砂粒で埋まってる。ダメだよ、これ。ある程度の量でまとめて1にしてくれないと、もうアイテムが所持できない」


 砂を捨てると念じながら手を振ると、手から砂が飛んだ。


「砂かけババアなのじゃ~。ってワシ、ババアじゃないのじゃ!」


「何も言ってないよね?! それに僕が砂を投げたんだから、今の台詞、僕のでしょ。ユウが言ったら駄目でしょ!」


 僕は一抱えほどの箱を描くように手を動かす。


「こう! これくらい。これくらいで土というアイテムにして! できれば、立方体。四角いブロックになってほしい。あと、砂じゃなくて、土にして。砂は、ゲームが少し進行してからガラスを作る素材の定番だから、初期位置の近くでは入手できない方がいいかも」


「分かったのじゃ。どう。見てみて?」


 パッ!



 レッドベリー:2

 土:1



「そう。こんな感じ。ありがとう。異世界転移して土を手に入れただけなのに、神的な存在にお礼を言うなんて思いもしなかった!」


「げへへ……にちゃあ……」


「照れ方、下手くそすぎ!」


 初期インベントリが一〇というのは少ない気がするが、そこは、この世界の仕様次第か。それに、もしかしたらお金を払ったりレベルアップをしたり鞄を買ったりすればインベントリを拡張できるかもしれない。今はこのままで。


 それよりも先に……。


「ねえ。この土って、僕がアイテム化して所有したら、この土地から消える?」


「当然、消えるのじゃ」


「なるほど消えるタイプか……」


「何を気にしているのじゃんがりあんハムスター」


「えっと……。土は自然界から僕のインベントリに移動しているから、消えるのが当然だし、それが常識だというのは分かるんだよ。でも、ストーリーを重視した作品に多いと思うんだけど、自然界から物を採取しても減らない場合があるんだ。土をどれだけ採取しても、山は消えないの。鉄鉱石とかキノコとかも、採取ポイントが決まっていて無限に採取できるの」


「無限に採取できたらバランスぶっ壊れなのじゃー」


「あ。うん。言葉が足りなかった。貴重なアイテムは再入手可能になるまで時間が掛かるの。例えば、花は一時間で復活するけど鉄鉱石は四時間で、金は二四時間……みたいな」


「なるほどー。面白いのじゃ。この世界は、どうするのじゃ?」


「うーん……」


 悩ましい。


 既存の家に住んだり、イベントで拠点が手に入ったりするなら、アイテムは時間経過でリドロップするタイプが生活しやすい。例えば、ここならレッドベリーがリドロップし続ける限り、食料には困らない。


 けど、遠方へ冒険したり、広い範囲を開拓して街を作ったり、地下を掘りまくるなら、資源がアイテム化して消滅していくタイプのほうが楽しい。


 というか、木を伐採したときに消えてくれないと、開拓ができない。土が残ったら、トンネルを掘れなくなる。


 一長一短か……。


「うーん……」


「こっ」


「うーん……」


「こっ」


「下ネタ好きなの?」


「にゃははっ」


「決められない……。どっちも一長一短で……。うーん」


「どっち、どっち、どっちー!」


 ユウは僕の両腕を掴んで、体を前後にぶんぶん揺さぶってくる。凄いパワーだ。


「と~め~て~」


「い~い~よ~」


「あ~。……じゃあ、とりあえず土とか木とかの自然物は、立方体の形でアイテム化して減っていく感じで」


「分かったのじゃ。ヒューマンがいてくれて助かるのじゃー。ユウだけじゃ何も決められなかったのじゃ」


「あ。うん。役に立てているなら嬉しい」


「うへへへ……。配信映えする世界に近づいているじゃ~」


 ユウは一歩距離を詰めると、僕の右手首を掴んで持ち上げ、自分の頭に乗せた。


 何故か僕は半強制的にユウの頭を撫でることとなった。


 今の、そういう流れだっけ?


 それはそうと、もうこっちに来て小一時間経ったよな。


「あの。ところで、そろそろ時間が……」


「えー」


「ここは昼みたいだけど、実際は夜だし……」


「むー。しょうがないのじゃ……。ちゃんと明日も来てね?」


「うん。急な予定が入らない限り来るよ。僕がログアウトしたあと、殴ったりしないでよ?」


「大丈夫なのじゃ。『一時中断』じゃなくて『肉体に戻る』にすれば……。お主の肉体は、この世界から跡形もなく消えてなくなるのじゃ……」


「言い方が気になるけど、分かった。……その場合、再開したとき僕はどこに出現するの?」


「最終セーブ地点なのじゃ。ヒューマンの場合は、まだ拠点を作っていないから初期位置の草原にリスポーンするのじゃ。ワシもそこで待っておるのじゃ」


「分かった。……じゃあ、楽しかったよ、ユウ。……えっと。また、明日」


「また明日なのじゃ!」


 それじゃ……。


 僕は『メニュー!』って感じで念じる。出ろ……!


 うーん。難しい。


 ……出た!


 よし。メニューのオプションから、『肉体に戻る』を選択。


「じゃ、おやすみ」


「おやすみなのじゃ~」


 僕の意識は一瞬でアパートに戻った。


 はあ……。楽しかった。


 夢じゃないことを確かめたくてスマホを見ると『ワールドクラフト』というゲームタイトル画面が表示されている。


 夢じゃない……。


 わくわくしているけど、眠れるかな。


 ちょっと不安だったけど、ゲーム世界で歩いて疲れたのか、あっさり眠りについた。いっぱい歩いたからなあ……。

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