12話 クソガキ配信神ユウにうっかり殺されかける

「あっ……」


 枕元周辺を探り、スマホを取る。


 スマホの画面ではブラウザの動画サイトではなく、いつの間にかインストールされていたらしきゲームが起動していた。


 ゲーム画面には先程の景色がやや白みがかって表示されており、中央に直立不動の僕が映り、ちょっと斜め上から見下ろしたようなアングルになっている。


 画面中央で僕の体に重なって『ゲームを再開する』という文字が表示されており、いかにも、一時中断中のゲーム画面みたいだ。


 画面越しに見る僕の姿は、不思議とゲームキャラクターのCGのように見える。


 いや、しかし、こうやって見ると、僕ってけっこう格好いいな?


 カスタマイズの自由度がそれほど高くない洋ゲーのプレイヤーキャラとして用意されるデフォルト一六種類くらいに含まれていてもいいくらい、特徴的なんだけど無個性な顔をしている気がする。


 僕の周りを飛び跳ねているユウも、3DCGキャラクターに見えるけど、こっちは下着姿のくせに和製RPGの聖女キャラみたいに、作り込まれていてヒロイン感がある。グラの格差凄えな……。


「早く戻ってくるのじゃよー」


 とイヤホンから声が聞こえてきた。


 返事をしようかと思ったけど、ここで僕が喋っても声が届くとは思えない。


 ゲームのチャット機能を使うか、配信のコメント欄に返事を書き込めばいいのだろうか。


 いや、少しくらい黙っていても問題ないだろう。


 僕は布団から出るとシンクに行き、水を飲み、軽く深呼吸。


 いったん落ちつこうとすると、無理だった。


 胸がかつてないほどドキドキ高鳴ってる。


 縄文土器、弥生土器、分度器、あとなんだっけ。もっといっぱい、土器はあった気がする。


 まじで、異世界転移的なやつしてた。僕、ゲーム世界に行ってた。ヤベえ。


 異世界ファンタジー漫画の無料第一巻みたいなことって、本当にあるんだ。


 あっちに大きな家を造ってスローライフしちゃう?


 でっかい動物を飼う?


 モテモテハーレム作っちゃう?


 あ。いずれユウに頼んで、あの世界で玖瑠美も配信させてもらうんだから、ハーレムはまずい。兄が獣耳奴隷メイドに「ご主人様」なんて呼ばせていたら、ドン引きされて兄妹の縁を切られてしまう。


 落ち着け。深呼吸ひっひっふーっ。


 よし。再開しよう。


 僕は布団に寝転がってから、中央の『ゲームを再開する』ボタンをタップする。


 その操作中に見えた画面では、ユウが僕の周囲を飛び跳ねていて、僕の体に格闘ゲームのヒットエフェクトみたいな光が出ていた。


 ドカッ! ドカッ!


 という効果音も聞こえてくる。


 何事?!


 と思っているうちに、僕はまたゲーム世界に戻っていた。

 僕の顔面に向かって、ユウが細い腕を振り下ろしてくるところだった。


「わあああ!」


 僕は思わず叫んで、後ろにひいて避ける。


「ヒューマン! お帰りなのじゃ!」


「なんで攻撃してるの?!」


 視界の下の方に、ハートマークが6個あって、一つだけ赤色で、他のはすべて灰色になっている。


「ねえ、これ、僕のHPが最大6で、残り1という状態では?! 痛みはないし、体は普通に動くけど、死にかけてない?! ねえ、このハートがなくなったらどうなるの?!」


「死ぬのじゃ!」


「無邪気に殺さないで?! 死ぬのに、なんで攻撃したの? 僕達ズッ友って誓ったじゃん!」


「いつの間にかズッ友認定されてた?!」


「さっき拳をガッてやったでしょ。友達でしょ。じゃあ、叩くの違うくない?!」


「違うくあるわけではなくもない」


「じゃあ、何故……」


「寂しかったから……」


「うーわ……。銀髪で肌が白いからメンヘラムーヴよく似合う……。外見は美人なのに中身クソガキでギャップ酷いな……。ねえ、殺しちゃったら、ますます一人で寂しくなるのでは」


「確かにクリームコロッケ!」


「じゃあ、叩いたら駄目だからあげ」


「分かったのじゃ……。叩くのはSNSだけにする」


「もっとやめて! なんでそんな酷いことするの?!」


「ほら、私、プレミアムフライデーだから」


「プレミ……? ヤンデレ! 多分、言いたいのヤンデレ! 一文字もかすってない!」


「ンとレが被ってるのじゃ」


「え? ……プ、レ、ミ、ア、ム、フ、ラ、イ、デー……。被ってるの、デだよね?!」


「セーイチローも被ってるのじゃぁ」


 ユウが視線を僕の股間に降ろす。


「うわっ……。どん引き……。ライン超えだよ、それ……。謝って」


「ごめんなのじゃ……。ところで、ついさっき、ワシのこと中身クソガキって言った?」


「ところで、死んだらどうなるの? まさか、現実世界で死んだりしないよね?」


「ところで、そこは大丈夫なのじゃ。その体はさっきも言ったように、ヒューマンの意識が入っているだけで、リアルなコピー人間なのじゃ。3Dプリンターでガーッてやった感じ」


「ガーッか……。ところで、ゲーム世界とはいえ、リアルなコピー人間がいるのは、軽くホラーなんだけど」


「ここで死ねば装備品と所持品を失って、初期装備で最終セーブ位置で復活するなのじゃ。ところで、クソガキについて詳しく」


「あ。よくあるパターンか。ところで、無理矢理ところでって言うのやめん? あと、やっぱ死ぬのは怖いし抵抗があるから、攻撃しないで」


「分かったのじゃー。でも、動かないヒューマンを見ていたら、つい、叩きたくなったのじゃ! これはもう配信神としての本能なの!」


「この手のゲームでコラボ相手を殴ったことのない配信者はいないと言っても過言ではないから、その気持ちは分からんでもないけど……」


「なーのじゃ! ところで、あっ……」


「あ、いや、わざとじゃなく普通に『ところで』って言う分にはいいよ」


「うん。じゃあ、このナイスバデーを目の前にして中身クソガキと言った件について」


「はあはあ……」


「き、急に吐息が荒いのじゃ。そんな。渚の視線釘付け悩殺ナイスバデーを見て、我慢できないのは分かるけど……」


「待って。視界がうっすらと灰色になってきた。はあはあ……」


「死にかけじゃから、そのまま放置しとくと死ぬのじゃ」


「はあはあ……。マジか……。こういうゲーム世界なら、何か食べたら体力が回復するのが定番だけど……。周囲を見渡しても、お店はない。狩りで獲物を獲るか、何かしらの植物を得るしかないのか……」


 この世界の動物がどの程度の強さか分からないし、狩りは逆にこっちが狩られる怖れがある。


 果物を採取するのが安全だよな。


 進行方向にある森で果物を収穫できればいいんだけど……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る