Aランク配信部を追放されたVオタの僕、配信の神と出会いS級タレントとともに最強のVTuberグループを作る~みんな僕のこと好きすぎまである~

うーぱー(ASMR台本作家)

配信部からの追放

第1話 勇者パーティーを追放するノリで、僕は退部させられた

 高校の部活動で配信する者のことを『部活ューバー』と呼ぶ。


 これは僕達『虹ヶ丘第三高等学校・部活ュー部』が『全国配信者大会』で優勝するまでの、奇跡の軌跡を描く物語だ!


 僕達は今週末に市民図書館のイベントスペースを借りてリアルイベントを開催するほど勢いにノっている。


 絶対に盛り上げるぞ!


 僕は推しVTuberのキャラソンを口ずさみながら、意気揚々と部室に向かった。


「今日のラッキーカラーはどどめ色! 配信部二年の上山かみやま誠一郎せいいちろう。掃除が長引いて遅刻しました!」


 部室に入るときは、配信開始の挨拶っぽいことを言うこと、という先代部長が決めたルールに従って僕は入室した。まあ、このルールを守り続けているのは僕だけなんだけどね。てへっ。


 僕が作業用の机に向かう途中で、川下かわしも部長が椅子を回転させて体を向けてきた。


「上山ぁ。お前、今日で退部な」


 川下先輩は机に肘を突いてふんぞり返る。


 え?

 今、なんて言った?


 退部?


 他の部員達はそれぞれの座席から僕の方を見て、小さく笑っている。


 あ。分かった。そういう、ドッキリ動画の撮影だな。


 なら、ここは気づいていないフリで……。


「あの。よく聞こえなかったんですけど?」


「退部って言ったんだよ」


「……退部ってどういうことです?」


「来月で三年は卒業だ。来年は二年の島本がタレントになる。タレントが女なんだ。男のスタッフがいて変な噂が流れたらどうするんだ」


 誰だよ、この企画書や台本を書いたの。


 返答しづらい質問をしたら駄目でしょ。僕の答えが面白くなるように誘導してくれよ。


「男のスタッフが駄目だったら、佐々木君は――」


「動画編集できるやつを外すわけないだろ。つうか、お前みたいないかにもキモオタって感じのツラのやつに近くにいてほしくないって、分かれよ」


 ……なんか様子が変だぞ。これ、本当にドッキリ動画の撮影?


 確かに僕はキモオタだけど、タレントの川下先輩がそれを口にするのはイメージダウンだよ。このままだと動画は公開できないと思うんだけど……。


 いや、先のことは気にするな。


 今、最優先すべきは、僕がキモオタ弄りされても気にしていないことを動画視聴者に伝えること!


「キモオタセルフモザイク!」


 僕は両手を顔の前に持っていき、指を激しく動かして、モザイクのようにして目元を隠した。


「は? ふざけてんのお前?」


 ドンッ!


 川下先輩が机を叩いた。


 僕はバックステップして壁に激突する。


「そしてその時の勢いで僕は4~5メートルくらい吹き飛ばされて床に叩きつけられました」


 肩は痛かったが、渾身のネタが炸裂したぞ。


 ……誰も笑ってない?


 え?

 ガチで怒ってる?


 なんで?


 今の、川下先輩のイメージを落とさないために、僕がふざける場面でしょ?


 怒るってことは、今、本当に僕は退部を告げられているってこと?


 ゆっくりと息苦しくなってきた。


「待ってください。これ、ドッキリ動画の撮影とかじゃないんですか?」


「動画で晒せるツラか、テメエ。キモくて晒されるツラだろ」


「そんな……。なんで僕が退部なんですか? 炎上するようなことしてないし、部に貢献だってしてきたのに」


「は? 今まで何に貢献してきたんだよ」


「え?」


「今まで本田が台本を書いて、田中がイラストを描いてきた。俺が動画に出演する。撮影は吉野。島本と佐々木が編集する。これで動画の完成だ。上山。配信部にお前は要らねえんだよ」


「そんなっ! 僕は流行を調べたり、配信部活連盟に必要な書類を送ったり、イベント会場を予約したりしてます」


「流行を調べるって、要するに趣味で動画を見ているだけだろ。それに、会場の予約くらい誰でもできる。お前、配信部に要らねえんだよ」


「確かに僕は動画の製作そのものには関わってないけど、他のことで貢献しています。……そうだ! 川下先輩のために何社もVTuber事務所に履歴書を送ったし、サンプル用の切り抜き動画を編集したし、面接の予約も入れたし――」


「は? 俺がオーディションに合格したのが、俺の実力じゃなくて、お前のおかげだって言うの? 信じられねえクズだな」


「そうは言ってないじゃないですか。僕なりに部に貢献しているって……」


「吉野達が作った動画を切り抜いただけで、偉そうにしてんの? 他人の成果を自分のおかげだと勘違いしているようなやつとは一緒にやれねえんだよ。出てけ」


 川下先輩が吐き捨てるように言った後、笑いを堪えるような声が聞こえてくるだけで、誰も僕をフォローしてくれない……。


 ドッキリでしたとネタばらしする人もいない……。


 僕なりに頑張ってきたつもりなんだけど、必要とされていなかったんだ……。


「分かりました……。でも、今週末のイベントだけは手伝わせてくれませんか?」


「駄目に決まってんだろ。事務所の関係者だって見に来るかもしれないんだ。取り入ろうって魂胆が丸見えでウザいんだよ。さっさと出ていけ」


「違います。チケットが完売してから川下先輩が追加販売したから――」


「人のすることにケチつけるんじゃねえよ。そんなにプロになる俺が妬ましいのか?」


 退部を先延ばしにしてほしい理由を説明しようとするが、川下先輩に遮られてしまった。


 今週末のリアルイベントは、六〇座席の会場でチケットは完売していた。しかし、相談もなく川下先輩が昨日いきなり四〇枚を追加販売してしまった。


 そこまでは別に問題ない。チケット販売ページに「チケットの販売数によっては立ち見でのイベントに変更されます」という注意書きがある。


 けど、立ち見イベントに変更することをチケット購入者に告知する必要はあるし、会場に椅子が要らないことを伝える必要もある。


 佐々木君が立ちあがり、近寄ってきた。


 同級生だから助け船を出してくれるのかと、一瞬、期待してしまった。


 けど――。


「もういいだろ上山。本当は新部長の俺がお前に退部を告げないといけないのに、川下先輩は代わりに汚れ役を買ってくれたんだ。そんな優しい先輩に口答えするなよ。ムカつくからさ」


「そんな……」


 正直、退部には納得していないし混乱している。


 けど、僕はもうここにはいられない。


 仮に残れたとしても、僕のせいで場の空気が悪くなる。


 私物を持ち帰るため、自分が使っていた机に向かった。


 しかし、机の上にも引き出しの中にも、何もない。


「佐々木君、僕の私物、知らない?」


「知らないね。掃除の人が捨てたんじゃねえの?」


「え?」


 部室の掃除は部員がすることになっている。部外者が勝手に掃除するはずがない。


 嫌な予感がしてゴミ箱を見に行くと、僕の筆記用具と、VTuberメロン艦長のフィギュアが捨ててあった。


 僕はゴミ箱から私物を回収する。


 なんでこんな酷いことができるんだ?


 筆記用具を捨てるのは許せないが、そのクソ発想はギリ理解できる。


 けど、メロン艦長のフィギュアを捨てるのは、違うだろ。


 ここは配信部だろ。業界トップの大先輩にリスペクトしろよ。


「勝手に捨てたの、誰?」


 僕は怒りを押し殺して、可能な限り落ちついた声を発した。


 返事はない。


 それどころか、僕が視線を向けると、吉野先輩がスマートフォンを僕の方に向けていた。


 ライトが光っている。


 勝手に撮影してる?


 なんで?


 悪ふざけ?


 僕が怒って暴れる瞬間を撮影して、ネットに晒そうとしてる?


 なんで……!


 なんでこんな酷いことができるんだ!


 叫びたいが、そんなことをしたら相手の思うつぼだ。


 僕は回収した私物を鞄に入れると、部員達に視線を合わせずに部室の出口に向かう。


「ゴミ箱から拾ったフィギュアのスカートを覗くキモオタの映像は撮れたか?」


「うん。撮れたよ」


「キモオタ先輩、泣きそうだよー」


「やめなよ。聞こえるでしょ」


 明らかに僕をからかうために、聞こえるように言っている。


「はーあ。先代の部長があいつのこと有能って言ってたけど、ほんっと典型的なオタク思考ばかりで使えなかった」


「ですよねー。あいつ、私が描いたサムネに『トレスはマナー違反だから直せ』とかケチつけてきて鬱陶しかったもん。シナジー狙いで再生数稼げること分かってない素人だよ」


「分かるー。私の台本にも『漫画の台詞そのまま使うのはNG』とか言って、勝手に書き換えてきたしウザかった」


「マジかよ。あいつ後輩の作品を勝手に改編してたの? ガチのゴミクズじゃん」


「あ。そうだ。あいつが勝手に非公開にした『漫画街で読めるオススメ無料漫画一〇選』を公開しようぜー」


「パクりだとか違法だとか言うやつがいなくなると活動の幅が広がりそうだよな。これならSランク認定もすぐじゃね?」


「あ。そうだ。俺、スマホの機種変したい。あいついなくなったし部員全員の合意で、クラファンの金使えるだろ」


 僕は部屋を出ると、叫ぶのを堪えながら廊下を急いだ。


 悔しい!


 仲間だと思っていたのに!


 ムカつく!


 あんな奴等のことを仲間だと思っていた自分にムカつく!

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