第9話

それからまもなく礼音は潤に話をした。

廊下の片隅だ。

「実は私、写真部なの。練習中の所を撮らせてくれないかな」

「俺を?」

「そう。決して練習の邪魔はしないから」

「……いいけど」

「分かった。ありがとうね」

「いいや」

「使うのは写真部と新聞部だけだから」

こうして早速、その日の放課後から礼音は一眼レフ片手にグランドへ来たのである。

制服には写真部の腕章を付けている。

ファインダーを覗く瞳は真剣そのものである。

今はバットを振っている所だ。

次にノックや、投球練習とメニューが続いていた。

新聞部ではないのでただ撮るだけだ。


夏の予選大会間近なので、写真撮影は3日間だけであった。


夏の甲子園予選大会が始まった。

葉山高校は順調に勝ち上がって行き、準々決勝に進出していた。

既に8回表、葉山高校の攻撃である。

バッターボックスに立っているのは三室潤である。

礼音はファインダーから覗いていた。

相手校のピッチャーが振りかぶる。

潤がバットを振る瞬間を礼音は撮っていた。

別の場所で郁弥も選手達を撮っていた。

潤はヒットを放ち、一塁へ走った。

だが次の打者がスリーアウトとなり、

8回表は無得点のまま、8回裏を迎えた。


確かに実際カッコいいかも……

礼音は潤のみならず野球部員全員の写真を撮り続けた。

回は既に11回裏。

共に1点を取っている。

ユニフォームは汗と泥にまみれ、綺麗な人は誰もいない。

そしてこの回もまた潤はランナーを許さなかった。

ここまで三室潤は1人で投げきっていた。

萌香を含めた3人娘は抱き合って泣いている。

回は12回表。

遂にセカンドの吉原がホームランを放った。

こうして2対1のまま、12回裏を迎えた。

潤は投げ抜いた。

だがランナーを許してしまい、スリーベースヒットを放たれしまい……

3対2で葉山高校は負けた。

ベスト4には進めなかった。

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